2014年12月29日月曜日

ロシア大会後も続く日本サッカー暗黒時代

2014年12月29日深夜に放送されたフジテレビ特番『ザックジャパンの真実』を観ました。サッカー日本代表の元監督アルベルト・ザッケローニ氏に4年間帯同した通訳の矢野大輔さんが綴った『通訳日記 ザックジャパン1397日の記録』(株式会社文藝春秋刊)を土台に『すぽると』とコラボした企画で、その日記に綴られた内容を軸とするザッケローニ氏と矢野氏の対談で、ブラジルW杯までの4年間を振り返っていくというもの。

なんともひどい企画でした。「本気で日本サッカーの未来を憂いている人間は誰ひとり関与していないのだな」という印象しか残らない番組でした。

この番組を観るにあたり、私が焦点としたのは「ブラジル大会の惨敗をザッケローニがどう振り返るのか」でした。多少の編集こそあれ、ザッケローニ氏本人がカメラの前で口にする言葉は、まぎれもない真実。ブラジル大会までのエピソードでいろいろと言いたいことはありましたが、何より注目すべきは自身が指揮を執ったチームの結果に対する自己評価です。

「日本人選手の潜在能力は高く、世界と渡り合える技術を持ち合わせていた。彼らに足りなかったのは、自信だった」

番組のなかで、ザッケローニ氏はそう語っていました。

「他人事かい」

その言葉を耳にした瞬間、私の口から出た言葉です。ある意味予想どおりでもありましたが、なんと無責任な人物に大事な代表チームを預けていたのかと呆れました。

4年という年月は、プロサッカーの世界では十分すぎる時間です。確かに代表チーム自体は年間を通じてみても活動期間は短いのでクラブチームと同等には見れませんが、世界では一年未満で解任される人も少なくありません。時間は十分すぎるほどありました。「自信がない」ことぐらい、よほど無関心な人でなければとうの昔に見抜けるはず。こんなのはただの言い訳にしか過ぎません。

選手に自信がないのなら、自信をつけられるようなコーディネートをすべき。「タジキスタンと試合をしても自信にはつながらない」というのなら、日本サッカー協会にマッチメークの是非を問うべきです。「ホームじゃなくてアウェーでの試合を増やせ」、「FIFAランキングの上位国との試合をやらせてくれ」など、いくらでも言えたはず。そのための最高指揮官でしょう。

ブラジル大会での惨敗は、コンディション調整の不備などいろいろと言われていますが、そうしたディテールすべてを含めたうえでの、指揮官ザッケローニの采配力の欠如だと思います。「攻撃的なサッカーをやりたい」と言ったって、本当の意味で試合を支配できる国なんて世界に数えるほどしかいません。ほとんどの国が、そうした強豪国を向こうに回して守備的に戦い、失点を最小限に抑えて少ないチャンスで倒そうと試みるのです。W杯で勝ち上がれば勝ち上がるほど相手は強くなっていくのですから、そうした戦いが強いられるのは至極当然のこと。“守備的な戦い=悪”という風潮は、日本人の悪いクセだと思います。

この番組についてもうひとつ残念に思ったことは、ザッケローニ氏と矢野氏の対談現場で、「ふざけたことを言うな」と言える人物がひとりもいなかったことです。本当に日本サッカーの未来を憂いているのであれば、あのブラジルでの惨敗を引き起こした張本人の無責任な言葉を聞けば、その場で張っ倒してやってもいいぐらい。実際、4年間も猶予を与えた挙げ句にW杯で一勝もあげられなかった外国人監督に「ありがとう」なんて言葉を吐くのは日本人ぐらいでしょう。僕が外国の人間なら、「日本はなんてお人好しの国なんだ」と大笑いするところです。

今回の番組は、“日本サッカーの今”を如実に表していたと思います。大金と時間を与えたにもかかわらず結果を出せなかった好々爺と、それを笑顔で囲むメディア陣。そこに、本気で日本サッカーを強くしたいという意思はついぞ感じられません。

今、日本サッカーは極めてダークな状況にあります。W杯で惨敗したことにより、日本に対する世界の評価は著しく下がりました。つまり、「弱い日本と試合なんかできるかよ」と強豪国がオファーを断ってくる可能性が高まったわけです。しかし、日本が強くなるためには世界屈指の国々との試合経験が不可欠。弱い国であることは覆しようのない事実ですが、それでもマッチメークを行なうとすると、

1, コネクション
2, ファイトマネー
3, 大きな大会への出場権獲得

などが必要になります。ファイトマネーはスポンサー次第で出しようはありますが、それでも極東の弱小国まで足を運んでくれる国がどれだけいるか。「3」は、まもなく始まるアジアカップで優勝した際に獲得できるコンフェデレーションズカップへの出場権。そして「1」は、世界的に著名な指揮官を利用してのマッチメークです。現代表監督であるハビエル・アギーレ氏には、「1」と「3」が求められています。しかし、先の八百長疑惑もあり、日本サッカー界にはますます暗雲が立ち込めてきたというわけです。

“たら・れば”の話をしても仕方ないのですが、もしブラジル大会でそれなりの成績(せめて決勝トーナメント進出)をおさめていれば、たとえ無名の国産監督であってもマッチメークはそれほど難しくなかったでしょう。つまり、ブラジル大会での惨敗はこうしたところにまで影響をおよぼしているのです。

番組を見終えて、この企画にかかわった人すべてが、ザッケローニ氏の功罪を理解していないのだな、と感じ入りました。それも、日本サッカー協会の顔色をうかがったような内容に終始して。

こんな番組が堂々と放映されていること自体、ブラジルでの惨敗をきちんと受け止めていない何よりの証拠。憤りを超えて、絶望感すら漂いました。

断言します。3年後のW杯ロシア大会、仮に出場できたとしても、日本は結果を出せないでしょう。なぜならば、ブラジルでの惨敗の原因をきちんと突き詰めず、うやむやにしたままダマシダマシ事を進めようとしているからです。

日本サッカーの暗黒時代は、ロシア大会後も続きます。現時点では、いつ晴れるのかすら分かりません。堕ちるところまで堕ちないと気づかないという悪癖に、改めて自国に対する日本人の関心の薄さを感じた次第です。