2016年1月20日水曜日

知っておきたいナンバープレート表示法の改正点


■国交省に直接電話して聞きました
今年(2016年)4月1日から施行されるというナンバープレート表示に関する新基準。すでに国土交通省のウェブサイトでも公表されていますが、具体的な基準について今一つ明確になっていないところがあり、取材でオートバイ販売店に行くと「いつまでに登録された車両が対象なの?」「この付け方はNGなの?」と聞かれることが増えてきたのです。

バイクのカスタムの中でひとつの手法として用いられるナンバープレートの位置変更。私が関わることが多いハーレーダビッドソンでも、ナンバーのサイドマウントは珍しくない手法です。それゆえ今回の法改正で「どこまでがOKで、どこからがNGなのか」を明確にした上で対応せねば、路上でおまわりさんに呼び止められることにつながってしまいます。

国交省の公式ホームページでの発表内容を見てみたのですが、一定のラインからは現場の判断に任せているのか、表現が曖昧な部分がちらほら。そこで、こと「オートバイの構造変更」について聞いておきたい点について、国交省の自動車局自動車情報課の担当者に直接電話をして話を伺いました。


■サイドマウントはOK。ただし……
まずナンバープレートの表示の基準ですが、今回の改正により、以下の内容が明文化されました。
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・カバー等で被覆すること
・シール等を貼り付けること
・汚れた状態とすること
・回転させて表示すること
・折り返すこと
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ナンバープレートの向き(角度 > 回転)についても「水平」と明確にされました。



この点については改正前と変わらないのですが、以前だと明文化されていなかったため、ナンバープレートを縦にして取り付けたバイクであっても、取り締まられることがまずないグレーゾーンだったのです。しかし4月1日以降はナンバープレートを縦に装着しているバイクは、警察官による街頭検査を受ける対象となってしまうとのこと。

「では、取り付け位置はセンターでなくても良いのか」という点については「真後ろでなくても良い。サイドマウントもOK」だそうです。担当者曰く、ナンバープレートの表示基準は「後方20メートル/左右30°の位置から見て、表示されている内容が認識できること」とされており、「”ほぼ真後ろ”から認識できる位置であれば、サイドマウントだろうと構わない」と。

ちなみに、車検や登録で運輸局に持ち込んだ際、ナンバープレートを縦置きにしていたりカバーをかけたりしていても、検査ポイントのひとつとしてチェックされることはないそうです。理由は、「ナンバープレートが保安基準に関するものではない」から。検査官から「これ、やめた方がいいですよ」と言われることはあっても、彼らに取り締まる権限はありません。もちろん、そのまま公道を走ればおまわりさんに呼び止められますけどね。


■取り締まり対象の期限は?
そしてもうひとつ、「(改正法が施行される)2016年4月1日以前に登録した構造変更車両は取り締まり対象なのか、対象外なのか」についてうかがったところ、「もちろん、施行以前に構造変更した車両であっても取り締まりの対象になります」とのこと。確かに、警察官が縦置きサイドマウントの車両を呼び止めて「車検証を見せて」とチェック、4月1日以前に登録されているバイクだから「あ、このバイクは取り締まり対象じゃないね。じゃ、いっていいよ」って言うかと思うと、それはまずないですね。お役人の立場から考えればわかるでしょう、「イチイチ書類をチェックする手間なんて割きたくない」、「片っ端から取り締まれるのが容易」でしょうから。

これらの話を要約すると、バイクのナンバープレート・サイドマウントに関しては、
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●サイドマウントはOKだが、水平かつ規定の角度に合わせることが義務付けられる
●2016年4月1日以降、ナンバープレート表示の新基準は日本中の車両が対象となる
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が必須項目となります。

はるか昔から脈々と続くバイクのカスタムカルチャーから見れば、これまで「サイドマウントといえば縦置き」とされてきたナンバープレートを横置きにするのは、違和感はもちろん、見た目的にもあまりかっこよろしくない印象があります。しかし、それも突き詰めれば個人の主観に他ならず、今回の改正によって取り締まり対象となることが決まった以上、それを踏まえた対応が求められるのです。

カスタムバイクとともにバイクライフを楽しんでいる皆様、この点にご注意ください。

2016年1月12日火曜日

賛否分かれる高校サッカー優勝インタビューに思う

■お涙頂戴はもうたくさん
冬の風物詩である高校サッカー選手権大会の決勝戦が行われ、西の強豪・東福岡高校(福岡)が国学院久我山(東京)を5-0で破り、夏冬の二冠を達成しました。実に興味深い試合内容でしたが、その後の優勝インタビューの模様もまた興味深いものでした。東福岡・三宅海斗選手へのインタビュー内容というのが、以下のようなものだったそうです。

インタビュアー「夏冬二冠、どんな未来につなげていきたいですか?」
三宅海斗選手「まぁ……質問変えてもらっていいっすか」

全国ネットで中継されたということで、「高校生のくせに生意気だ」「インタビュアーの質問がくだらない」など、賛否の声が上がっているそうです。確かにこの文面だけ見るとふてぶてしい感じが漂ってきますが、よくよく動画を見れば、「質問変えてもらっていいっすか」のくだりのところは小声になっています。何か事情があって答えにくかったのでしょう、むしろテレビを考慮した大人の振る舞いだったのではないでしょうか。

一方、インタビュアーも何が聞きたかったんだ?という違和感が拭えません。3年生でまもなく卒業という彼に「夏冬二冠、どんな未来につなげていきたいですか?」って、どんな答えを求めていたの?と。それを想像するだけで、三宅選手は大人の対応をしたなぁ、と感心するばかりです。

「この感動を誰に伝えたいですか」
「◯◯くんのお母さんが観客席に駆けつけています」
「もっとも苦しかったときのことを聞かせてください」

いわゆる”お涙頂戴”が大好きな日本のメディアシーンですが、それを聞いて何がどうなるんだ?と言いたくなることが少なくありません。高校野球なんて分かりやすいですよね。炎天下の夏の甲子園で連戦連投の選手に「熱投」というキャッチを添えて感動秘話を作り上げようとする模様は、昭和の薫りがする古臭い演出以外の何物でもありません。プロですらやらない負荷を高校球児にかけるなんて、正気の沙汰とは思えない。

お涙頂戴インタビューに対して、高校球児が「は?意味わかんないです」って答えたシーン、見たことないですよね。それがサッカーになると、Jリーガーですら苦笑いする場面が珍しくありません。中田英寿、小笠原満男、本田圭佑と、その名を聞けば思い当たるシーンがないでしょうか。

違いは、リアリズムの有無だと思います。


■未来を担う若きリアリストへ
ここ20年で、スポーツメディアの環境は大きく変わりました。サッカーに関して言えば、かつて遠い存在だったヨーロッパのトップリーグをテレビや動画で簡単に観ることができるようになり、現地観戦も容易になりました。そして日本人選手がトップクラブに入団することさえ珍しくなくなった。20年前の僕に「20年後、日本人選手がACミランの10番を担うんだぞ」と言っても、間違いなく鼻で笑っていたことでしょう。

野球に関しても同様で、メジャーリーグに参戦する日本人選手のなんと多いことか。NPBから三行半を突きつけられながらドジャース入団を果たした野茂英雄さんの時代と比べると、今は夢の世界のよう。

いずれも海外トップリーグが身近になったということに変わりはありませんが、ドラフト制度やFA制度に縛られた日本球界と、国内・海外問わず高校卒業後から好きなチームを選べる日本サッカー界とでは、その感覚に大きな開きがあるように思えます。

「高校生に将来のチームを選ぶなんて判断力があるわけがない」という前提から成り立つドラフト制度は、世間を知らない高校球児を数年間所属チームが守るというメリットがある一方、自分がプレーしたいと思うチームが選べないという時代錯誤なデメリットが大きく横たわります。

一方で青田買いが激しい現代サッカーでは、自分の判断で好きなチームを選べる一方、完全なる実力主義の世界ゆえに切り捨てられるときも容赦ありません。日本の武士社会における主従意識が強く残る野球界と違い、サッカーは社会でも同様の場面が見られるドライな欧米感覚が中心となりつつあるようです。

僕自身も日本で育った日本人ですので、お涙頂戴の物語やシーンにはいたく感動するわけですが、長くサッカーを見てきたせいか、必要以上の”お涙頂戴”には不快感を覚えてしまうようになりました。

今の日本社会を思うと、現代の若者は一層ドライになっている節があり、その観点から見ると、今回の三宅選手の受け答えはむしろ空気を読んだ配慮すら感じられるもの”今時の若者には珍しい振る舞い”だったと思います。

その反面、選手のプレーひとつひとつをクローズアップするのではなく、「とりあえず、お茶の間が感情移入しやすい話を盛り込ん度キャいいんだよ」と言った姿勢が違和感なく横行している日本のスポーツメディア界は、恐ろしく閉鎖的な世界なのだな、とも。

リアリスト、または合理主義と言えますでしょうか。年配の方から見れば不遜に見える傾向も、豊かとはいえ守られない社会が待ち受ける日本の若者にとっては至極当然の感覚だと思いますし、大きく変わりゆく日本社会の礎となるものだと思う今日この頃です。

2015年11月25日水曜日

一発屋にすらなれないサッカー日本代表は全然強くない

ここ最近はラグビー日本代表の快挙で大いに湧く日本スポーツ界。バスケットボールなどと同じく、身体能力が多分に影響するこの競技でこの結果は快挙というほかありません。こうしてスポーツへの関心度があがるのは、嬉しい限りです。

さて、ワールドカップと言えばサッカー日本代表も予選の真っ最中。先頃シンガポールとカンボジアを退け、アジア2次予選のグループEで首位に立っています。残り2試合、2位との勝ち点差がわずか1ですので、気の抜けない試合が続きますが、最終予選までコマを進めてほしいもの。

そんなとき、知人からこんな言葉を投げかけられました。

「日本代表って、強くなってんの?」

ううむ、改めてそう言われると、つい「強くなってるよ」って答えてしまいそうになりますが、実に定義付けが難しい。

しかし、明確な物差しはあります。それはワールドカップ。

日本は1998年ワールドカップ・フランス大会にて初出場をはたし、以降5大会連続で本大会出場を決めています(うち2002年日韓大会は開催国にて予選免除)。それまで一度も出場できなかった暗黒時代を思うと、その発展ぶりたるや目覚ましいものがあると言えますね。

そんな我らが日本代表のワールドカップにおける成績は以下のとおり。

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・1998年フランス大会 予選グループ敗退(0勝0分3敗/計3試合)
・2002年日韓大会 ベスト16(2勝1分1敗/計4試合)
・2006年ドイツ大会 グループリーグ敗退(0勝1分2敗/計3試合)
・2010年南アフリカ大会 ベスト16(2勝1分1敗/計4試合)
・2014年ブラジル大会 グループリーグ敗退(0勝1分2敗/計3試合)
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一大会ごとに決勝トーナメントにコマを進めているものの、すべてベスト16止まり。「強いかどうか」の基準をどこに置くかにもよりますが、勢い次第ではベスト8まで進んじゃう国がいることを思うと、ベスト16の壁が破れるほどの勢いすら持てていないと見るならば、世界から見た日本は「強いと言っても、注目するほどじゃない」というところでしょう。

で、せっかくなので、日本が初出場をはたした1998フランス大会から2014ブラジル大会までで、ベスト8に進んだ国をまとめてみました。


日本が出場した1998仏W杯以降のベスト8以上の国
※★は優勝
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■5回(2ヶ国)
ブラジル(1998、2002★、2006、2010、2014)
ドイツ(1998、2002、2006、2010、2014★)
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■4回(1ヶ国)
アルゼンチン(1998、2006、2010、2014)
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■3回(2ヶ国)
フランス(1998★、2006、2014)
オランダ(1998、2010、2014)
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■2回(3ヶ国)
イタリア(1998、2006★)
イングランド(2002、2006)
スペイン(2002、2010★)
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■1回(14ヶ国)
クロアチア(1998)
デンマーク(1998)
セネガル(2002)
トルコ(2002)
韓国(2002)
アメリカ(2002)
ウクライナ(2006)
ポルトガル(2006)
ウルグアイ(2010)
ガーナ(2010)
パラグアイ(2010)
コロンビア(2014)
コスタリカ(2014)
ベルギー(2014)
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複数回を誇るのは、最多5回のブラジル、ドイツを筆頭に、アルゼンチン、フランス、オランダ、イタリア、イングランド、スペインという、名だたる強豪国が並びますね。

5大会分というと、年数にして16年。その16年のあいだに何度もベスト8に進める国というのは、こうした強豪国のみ。クリスティアーノ・ロナウド擁するポルトガルやかつてフォルラン(元セレッソ大阪)に率いられたウルグアイですらたった一回なのです。

そんな強豪国のなかに混じって、名前だけ聞くと「そんな強かったっけ?」という国名がいくつか並びます。セネガル、韓国、アメリカ、ウクライナ、ガーナ、コスタリカなどがそういう印象を持たれるところで、いわゆる一発屋的なダークホース。トーナメント形式の大会では勢いのあるチームが一気に駆け上がることがあり、そのうちのひとつというところです。

大きな花火のように、派手に大輪の花を咲かせた後は、闇夜に消えるのみ。ベスト8進出という経験を生かすも殺すも彼ら次第ですが、言い換えれば、まだ日本が見たことのない世界を見た国々でもあるのです。

そういう意味で言えば、ベスト16止まりの日本は“一発屋にすらなれていない国”となりますね。決して蔑んでいるわけではありませんが、強豪国はもちろんながら、5大会連続出場ながら一度もベスト8まで進めていない国は、世界から見れば“強い、弱いを議論する以前のような存在”でしょう。

思い起こせば、グループリーグで敗退した2006年ドイツ大会と2014年ブラジル大会で共通していた日本代表の言葉は「自分たちのサッカーを」でした。翻って、リアリストに徹した専守防衛のサッカーを展開したのが、ベスト16進出を決めた2002年日韓大会と2010年南アフリカ大会です。

自分たちのサッカーを貫くのは結構ですが、そんなでかい口を叩くのは、ベスト8へ進出してからでしょう。まだ強豪国にツバすらかけられていないのです。守備に関してはある程度のレベルに通用することは立証されたので、“守から攻へ”、ボール奪取からどれだけ速く相手陣内に攻め込めるか、という高速カウンターを身につけるべき。それが、ベスト16止まりの日本がまずやらねばならないことだと思います。

本田圭祐がどうだ、香川真司がどうだ、というのは、日本代表というチームを推し量るうえではディテールの域を出ません。ハリルホジッチ監督についても同様で、彼の現在の手腕よりも「なぜ彼が起用されたのか」が最大の問題。「ベスト8に進むために必要な指揮官としてハリルホジッチが適任なのか」という議論がまったくなされていないことが問題だと思います。

シンガポールに勝った?結構。カンボジアに勝った?結構。内容がよかった?結構。誰それの調子が上向き?結構。

で、ベスト8に進めるんですか?

ワールドカップ・ベスト8というのは、世界における強さをはかる物差しです。その物差しの使用を一度も許されていない日本代表は、強いかどうかを議論するレベルにすら達していないのです。まずは一発屋になる努力からはじめるべき。一発屋だって、誰もがなれるわけではありませんからね。

2015年11月14日土曜日

誰のための大会?野球の国際大会「プレミア12」に疑問

金田正一さん、よく言ってくれた!と、思わず膝をぴしゃりと叩きたくなるニュースがYahoo!JAPANにあがっていました。

>> 金田正一氏 侍ジャパンの解散を提案、今の時期は体を休めるべき

野球の日本代表チーム・侍ジャパンが参戦している「プレミア12」というナゾの国際大会。テレビでその模様を見て、僕も唖然としてしまいました。ようやく長いペナントレースとクライマックスシリーズ&日本シリーズが終わったというのに、休む間もなく目的の分からない国際大会が始まっていたのです。メンバーに阪神タイガースの選手が入っていなかったことに胸を撫で下ろしたトラキチたるワタクシですが、もしメンバー入りしていようものなら激怒モノだったでしょう。

プロとしてその競技の世界でメシを食っている以上、そのパフォーマンスが求められるのであれば全力を尽くすべき。サッカー日本代表がワールドカップやオリンピックに向けて戦いを挑むのも、彼らが活躍する姿をファンや国民が求めるからこそ。それは野球やラグビー、他の競技もすべて同一です。

「なんで侍ジャパンが世界に向かって戦いを挑むことにケチをつけるんだ」

そんな声が聞こえてきそうですが、ここにサッカーと野球の位置づけの違いがあると思うのです。特に今回のプレミア12に関しては「これ、本当にみんなが観たいと思って開催されるものなの?」というところ。

サッカーのワールドカップは、その長い伝統はもちろん、世界一の競技人口を誇るスポーツであることから、オリンピックをもしのぐ規模となり、四年に一度の開催に世界中が熱狂します。近年では「ワールドカップだけでは物足りない」と、サッカーに対して年々制限が変わるオリンピック、そしてクラブナンバーワンを決めるUEFAチャンピオンズリーグにクラブワールドカップと、増加しすぎて選手の静養期間が減少するという問題が起きているほど。

一方野球はというと、ワールドベースボールクラシック(WBC)があるぐらいで、昨今はオリンピックの正式種目から外されてしまいました。あらゆる競技に対して広く門戸を開くオリンピックですが、おそらくサッカーほどの利権がなかったことが外された要因でしょう。

日本でもっともポピュラーなスポーツ、野球。しかし世界規模で見ると、メジャーリーグを持つアメリカという大国が真っ先に飛び込んできますが、それ以外では北中米やアジア諸国、そしてヨーロッパのごく一部でプレーする人が見受けられる程度。サッカーには遠く及びません。

野球に「国際大会をするな」と言っているわけではありません。ただ、そうした一部のファンが結集して求めた声から「プレミア12」が生まれた、とは到底思えないのです。金田さんがおっしゃっているのは、まさにその点。「だったらしっかり体を休めて、ペナントレースに備えさせろ」は正論だと思います。

そもそも、代表に招集される選手はすべてプロ野球チームに所属しています。つまり、彼らに給料を払っているのは球団なのです。その彼らが、代表チームで怪我でもしたら?休養不足でコンディションを崩したり怪我をしやすくなったら?結果的に所属チームに迷惑をかける形となり、ひいてはペナントレースでの結果にも影響します。球団にとっては迷惑以外の何物でもありません。

サッカーに比べて体質の古いプロ野球界です、こういう招集をされれば「行くに決まっているよな?」という周囲の圧力も小さくないでしょう。結果的にそれが選手の成長を阻害しているにもかかわらず、です。

選手やファンが、WBCでの好成績を望み、そのための国際経験の場として「プレミア12」を絶好の機会だと捉えているのであれば、文句はありません。でも、それはまずあり得ないでしょう。ただ、サッカー日本代表に熱狂する(他国と比べると珍しいことではありますが)日本人のナショナリズムを刺激してビジネス化したい、そんな狙いでの開催としか見えませんし、金田さんもそこを突いておられます。

プロスポーツ選手は、消耗品ではありません。

多くの人が、この「プレミア12」という大会が開催されることを知らなかったことでしょう。それぐらい存在意義そのものが疑問視されていい大会で、もっと選手協会や選手個人が「おかしいよ」と声をあげるべき。そしてファンも、テレビで流れている模様をそのまま受け入れるのではなく、「え?なんでオフシーズンなのに代表マッチやってるの?」という疑問を抱くべき。

自身が応援する球団の選手が出ているからといって黄色い声援をあげるのではなく、「おいおい、なんのための大会だよ」という声が出ないことに、驚きを隔しきれません。こんな意味不明な国際大会がまかり通ること自体、スポーツそのものに対する日本人の関心度の低さが表れているように思えます。

2015年10月11日日曜日

ハーレー日本人デザイナー ダイス・ナガオ氏インタビュー #04 Fin

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■自分のすべてをこのアイアンに注ぎ込めた
 ――2016年モデルについて、XL883Rがモデルラインナップから消えたことも日本では話題にのぼりました。
そこに関しては、合理的な考え方からの結論ですね。日本とヨーロッパで人気を得ていたモデルでしたが、世界全体を見渡したとき、やはりアメリカ本土が占める割合が大きく、そのアメリカで支持されなかったゆえのカタログ落ちでした。
確かにアイアンだと、XL883Rのようなバンク角を持つことはできませんが、前後サスペンションのアップグレードでそこに匹敵する性能を持たせられるんじゃないか、という可能性を追求したいと思っています。フロントブレーキもシングルディスクであることにこだわったんです。

――というと?
デザイン上、足すのは結構簡単なんですが、引くのは難しい。13スポークホイールを9スポークホイールにしたのと同じ考え方です。実はこのアイアン開発に際して、ヨーロッパから「ダブルディスクにしてくれ」という要望があったんです。でも、アイアン本来のデザイン性が損なわれてしまうことから、「我々は9スポークホイールのシングルディスクで行く」と強く意思表示しました。
それに、一昨年から導入された新ブレーキングシステムはシングルでも十分なストッピングパワーを生み出せるんです。そこもシングルを押し通すうえでの大きな要素となりました。
一般の人の想いだけでデュアルにするという意味のないことよりも、シンプルさを追求したデザインに落とし込みたかったんです。

――なるほど。
ローターも2ピースに。今の時代、ソリッドのローターはあり得ないと思っているんです。それが2ピースにした理由です。
やっぱりバイクはカッコよくなきゃいけない、という自分のポリシーがありますし、アイアンのカッコよさはミニマムなところだと思うんです。こうしたコンセプトがぶれだすと、ワケがわからないバイクになっちゃうので。

――ダブルディスクにすると、ストッピングパワーがアップする反面、重さもアップします。
このバイクは重さが増えちゃいけないバイクだと思ったんです。

――ローダウンモデルでもきちんとした乗り方ができていれば、十分ライディングプレジャーが味わえると思います。
そうですね、俺もすべてのバイクが、スポーツバイクみたいな性能があって、楽しめるものだとは思っていないんですね。このバイクの性能をめいっぱい引き出してやったうえで楽しめれば、それはそれでスポーツバイクだと思うんです。
すべてのバイクがGSXRのようなハンドリングなんてできるわけがないし、同じことをやったらこの見た目は得られない。
車高があがったXL883Rとは違い、ローダウン仕様のXL883Nを預かったわけですから、そこにアレンジを加えてベストな状態にまで高めてやるのがいいと思いました。だから、ミニマムでスラムダウンではあるけども、そのなかでも気持ちよく走れるような足まわりの向上に対してしっかりアプローチできたと思います。

――その想いが、新型のアイアンに詰め込まれているんですね。
まずはカッコ良くあるべき。そのうえで、内側のグレードアップは必要です。俺もベンも、そうしたアプローチという点で意見は一致しています。そもそもベンはスポーツスターとFXRに乗っているんですよ。だから、今回のプロジェクトに対して思い入れも強かったんですね。
アイアンもフォーティーエイトも、スタイルは申し分ない。ただ、ライディングで難があることを僕らは知っていました。だから、そこを取り除いてやれば十分なアップグレードになると確信していたんです。

――“乗って楽しいバイク”にしたかった?
そうです。実際に完成した新型の2台に乗って、楽しかったんですよ。峠にも走りに行きましたが、以前のものよりも楽しめました。そして疲れなかったんですよ。フォーティーエイトなんて、変化が顕著でしたね。

――「疲れる」ということですが、それはローダウン仕様のサスペンションが底付きし、その衝撃がダメージとして体に蓄積されていったことからでしょうか。
そうですね。やっぱりバイクに乗って疲れるというのは、ストレスですよね。
新型のアイアンやフォーティーエイトは、これまで無理しながらクリアしていたコーナリングでも、平気な顔をしてラクラク走り抜けていけるんです。見た目も今までどおり。

――納得の仕上がりだと?
ええ、自分が出せるものはすべて出せたと思いますし、エンジニアやマーケティングなど、この開発に携わったすべてのメンバーが高いレベルで納得できた仕上がりだと思っています。

――本日は貴重なお話を伺えて、ありがとうございました。


【インタビューを終えて――筆者雑感】
「日本で受けた取材のなかで、もっとも話を引き出された人だった。彼はハーレーを愛してくれているね」

後日、ハーレーダビッドソンジャパンの方よりダイスさんがそう言っていたと教えていただき、感無量でした。決して何かを狙っていったわけでもなく、「本社の新型モデル開発者に直接話を聞けるまたとないチャンス」と、ただワクワクしていっただけの物好きの質問の嵐に、真摯に答えてくれたダイスさんには感謝してもしきれません。

XL883R(通称パパサンアール)がカタログ落ちし、日本のスポーツスターフリークを大いに落胆させた2016年モデル。そのことについてはマーケットに対するカンパニーの答えとして受け止めざるを得ないことかと思います。一方、ダイスさんをはじめとするカンパニーのデザイナーたちは、ハーレーダビッドソンへのリスペクトの念を忘れることなく、与えられた課題に対して「スポーツスターとはいかにあるべきか」を突き詰め、今回の新型モデルを送り出してきました。フォーティーエイトとアイアン、それぞれに彼らの想いが詰まっていることは、乗ることでしっかりと味わうことができたと思います。

今回のインタビューでもっとも印象に残ったダイスさんの言葉は、「愛がないじゃないですか」でした。そうか、彼も自身の仕事に愛をもって取り組んでいるんだと、ハーレーに乗るいちライダーとして嬉しい気持ちになったのです。

そんな彼に「ハーレーを愛してくれている」と言っていただけたのは、光栄の極みです。そして改めて、 「俺ってハーレーが好きなんだなぁ」って実感しました。


※本インタビューは、『ヤングマシン』ならびに『ビッグマシン』(内外出版社刊)、『スポーツスターオンリー』(造形社刊)にて掲載しております

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ハーレー日本人デザイナー ダイス・ナガオ氏インタビュー #03

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――今回のキーであるリアショックの改善について、教えてください。
完全にブランニューですね。リアだけでなくフロントもカートリッジを一新しました。
39ミリのナローのままが、スポーツスターのカッコよさですから。
だから、中身に対してインプルーブしました。


――一方でフォーティーエイトは、フロントフォークが大幅にチェンジしましたね。
携わったベンは「見た目を変えたい」と言っていました。
というのも、フォーティーエイトはあの重量系ホイールに対して、41ミリフォークは華奢でした。だから、49ミリフォークの採用はフォーティーエイトにとって本来あるべき姿になった、という印象です。
トリプルクランプまで変わったフォーティーエイトですが、アイアンは違って、変える必要がないところを変えなくてもいいので、それぞれの対比が出た印象です。


――フォーティーエイトの場合、ステップ位置がフォワードコントロールのためライダー荷重がすべてリアサスペンションにかかってしまい、グレードアップしたといっても負担が大きいんじゃないかと思っていたんです。ところが、思っていた以上にしっかり仕事をするな、という印象でした。

もうひとつあるんです。それが新設計のシートです。アウトラインのシルエットは基本的に変えていないのですが、シート下にあったECMも移設し、シートベースもゼロから作り直し、シートそのものに厚みを持たせてました。厚みそのものは変わっていないんですが、中身の素材に遊びを持たせることで、クッション性を高めました。
サスペンション+シートの相乗効果で、乗り心地を向上させているんです。
フォーティーエイトだと、かなり薄いスタイルですので、あの薄さであれだけの効果が生み出せたのは大きかったと思います。

――素材はかなりやわらかい仕様ですよね。そこも見直したのでしょうか?
もちろんです。私自身もベストのシートとして出しました。


――タック&ロールデザインについて、インスパイアされたものは?
私の好きな世界観から、ですね。私が好きなカスタムバイクショーで見るオールドスクール系カスタムにあります。古くから伝わるスタイルでありながら、新しい要素がツイストされているものを手がけたい、それがこのタック&ロールというデザインでアウトプットされました。

シートだけでなく、ラウンド型エアクリーナーやパンチアウトされたエキゾーストカバーなど、全体的に一体感をもってドロップしました。

――新タンクデザインのコンセプトを教えてください。
『アメリカーナ』ですね。アメリカの国鳥であるこのハクトウワシをデザインとして取り入れられるのは、アメリカのなかでも限られた企業だけですし、ハーレーダビッドソンにはその資格があると思います。「イーグルを使えるのは俺たちだ」と、臆せずデザインしました。これで、アメリカを象徴できたと自負しています。

ショベルヘッドのFXローライダーなどに見られた、黄金のイーグルの彫刻をご存知かと思います。あれもそうしたアプローチのひとつですが、モダンなバイクにそのまま取り入れちゃうとカッコ悪いですよね。だからそのまま描くのではなく、新しい解釈でのイーグルをデザインすることで、『アメリカーナ』を表現し、フリーダムと力強さの象徴とし、アイアンシールドでその哲学を守ることを表現しました。
説明せずとも、「ハーレーダビッドソンだ」ということが伝わるインパクトを持たせたかった。

――このグラフィックが取り入れられたカラーは、デニムブラック、オリーブゴールド、チャコールパールの3カラーです。
俺のおすすめは、チャコールパールです。あのカラーだとボディのブラックが映えると思います。黒が際立ってこそアイアンだと思うので、あのコントラストはいいですね。
オリーブゴールドもこの黒いボディによく似合っていると思います。1970年代アメリカにあったマッスルカーの、上級グレードじゃないタイプの色によく似ていますよね。RTとはSSとかSEとかではなくて、ベーシックバージョンの雰囲気に近いカラーなので、クリアがかかっているところがイイな、と思って見ています。

――どこの企業もイーグルを使えるわけではない。そこに100年を超える歴史を持つハーレーの偉大さがあると思います。特にハーレーは、四輪など大きな企業母体に支えられる他メーカーと違い、バイクだけで今日まで歩んできた。これはすごいことだと思うんです。
そういう意味ではピュアなメーカーだと思います。AMF時代には望んでいないものを作っていましたが、嫌々感は出ていましたからね(笑)。ウィリーGらによるバイバック以降、モーターサイクル一本でやってきているわけですから、ハーレーが本当にやりたいのはモーターサイクルなんだと感じ入りますね。

――日本では、若者のバイク離れについて業界から嘆きの声が聞こえているのですが、アメリカではどうなんでしょうか?
アメリカと比べると、日本の方が若者向けのバイクが多く、盛んな印象がありますよ。
アメリカでまず求められるのはクルマ。街から街への距離が日本の比ではないので、クルマなくして生活が成り立ちません。そのなかでオートバイとなると、移動手段ではなく趣味性の高いものとして見られています。ましてハーレーほど高価になると、若い人ではなかなか手が出せない。

モーターサイクルに対する捉え方としては、「生活に余裕がある人が乗るもの」という見方だと、アメリカの方がその意識が強いように思えます。日本の方が、もっと気軽に乗れる環境のように思えますね。

――日本の方が、若い人がバイクに乗っている印象が強い?
そう思います。ハーレーはやはりプレミアムブランドという位置づけですから。だからこのスポーツスターは、そうした若い人向けのモデルとして親しんでほしいと思います。


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ハーレー日本人デザイナー ダイス・ナガオ氏インタビュー #02

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■アイアンを“乗って楽しいバイク”にしたかった
――2016年モデルとして発表された新型のアイアンとフォーティーエイト。そのアイアンのデザインに携わったダイスさんに、開発のことをお聞きします。ダイスさんがアイアン、ベンさんがフォーティーエイト。それぞれが抜擢された理由は?
カンパニーでこうしたプロジェクトが立ち上がる場合、ケースバイケースなんですが、ひとつはコンペティション(競技会)方式で、お題に対してスケッチを提出し、ナンバーワンがプロジェクトリーダーとして進める方法と、もうひとつは素材(今回ならアイアン)に対してそのモデルへのアプローチを得意とする人を集めたチームを形成し、プロジェクトを進めていく方法があります。今回は後者ですね。

――その流れで、ダイスさんがアイアンに関するプロジェクトチームに携わることになった?

そうですね、割りとゆるい感じでのチーム構成から、押し進められていった印象です。


――以前のアイアンに対する印象は?
いつも思っていたのは「ラフに使ってカッコいいバイクだな」ということでした。例えばロードグライドだと、クロームパーツやきらびやかなカスタムが似合う、常に綺麗な美しいモデルだと思うのですが、アイアンは「使い込めば使い込むほどカッコ良くなるバイクだ」と思っていました。ショールームにあるときよりも、走り続けている姿がカッコいい。古いジーンズやブーツのように、自分の身の一部になって、味わい深さを増していく。だから、使い込むほどに味が出るデザインにしたいと思っていました。

アイアンは、その佇まいがもっともスポーツスターらしいモデルで、見ても走っても楽しいバイクだと思っています。だから今回のプロジェクトでは、良いところはそのままに、足りないところを補う方向で、向上させたいと思ったんです。

アイアンを“走りを楽しめるバイク”にしたかった。荒々しい外観と、ミニマムでスラムダウンさせたバイクなので、乗り心地は決してよくなかった。だから、このスタイルはそのままに、アップグレードされた足まわりを備えているアイアンこそが理想だと思いました。外観だけでなく、見えないところもインプルーブしたいとチームで共有し、アピールしました。

――それは、以前のノーマル状態に乗ったときの疑問が大きかった?
そうですね、ちゃっちぃな、って思いました(笑)。
ベーシックなカッコ良さはあるけど、乗り味もそのままだな、という印象でした。
疲れるし、ミニマムだし。

――疲れるというのは、どういったところで?
街中でも舗装のいいところばかりじゃないですよね、線路の上を超えたりすると、リアショックが底づくんです。スラムダウンしているから当たり前なんですが、そこを改善できたらベストだな、と思いました。
ミルウォーキーだけでなく、いろんなところで乗ってテストを繰り返し、粗を出しました。

(このインタビューの)二週間前にはプロモーションを兼ねて、スペイン・バルセロナで5日間完成車を乗り回したんですね。街中から郊外へ出て、峠、ハイウェイ、街中の渋滞エリアなど。舗装されたところもあれば石畳、地面が割れているところなどいろんなシチュエーションがあり、そこで実戦テストを行なったんです。我ながら、非常に良い仕上がりと感じるほどでした。

シャコタンのクルマってカッコいいけど、苦痛を伴うカッコよさですよね。あれがスイスイ気持ちよく乗れたら言うことないじゃないですか。そのイメージで、うまく仕上げられたと我ながら感動しました。


――確かに、私自身も新型アイアンに乗らせていただき、フォーティーエイトともども、前後サスペンションのグレードアップに大変驚かされました。
そう言っていただけて何よりです。

――確かに昨年モデルと比較したとき、新型アイアンが軽量化されていることに気づきました。
実はホイールのデザインチェンジは、当初のプランには入っていませんでした。ただ、足まわりのグレードアップという観点から見れば、ホイールも軽量化すべきだろうと。それで、13本スポークホイールから9スポークへと変更しました。

私のデザインでのアプローチとして、まずバイクはカッコ良くなくてはいけないというコンセプトがあります。そこにエンジニアによるアプローチはあってしかるべきですが、デメリットはあってはいけないと思っています。
新しい見た目で、カッコよく。そしてホイールは、軽くしたかった。
13本を変えるなら、FXなどに見られた9スポークだろうと。
ハーレー本来の姿への回帰、そこに新たなビジュアルを取り入れたかった。

エンジニアによる新ホイールへのアプローチをはかってもらい、剛性が高く軽いホイールを設計してもらったんです。
スポークのリムに近いところにエッジが光るマシンカットをしてもらいました。


――ナイトランのとき、都会のネオンに照らされると美しく輝くのでしょうね。
低速で走っていると、絶対美しく見えると思うんです。
このバイクは、汚れてもいいからとことん乗り倒してほしいんです。
ホイールのケミカルって大変じゃないですか。
だからこのアイアンだと、マシンカットの部分だけ磨いてくれれば、カッコよく見えると思うんです。
汚れていてもカッコいいバイク、それが新型アイアンの開発コンセプトでした。

――なるほど。
ただ艶消しブラックで塗装しただけのデザインって、愛がないじゃないですか。
ああいうクオリティにはしたくなかった。
ラフで、荒々しくて、力強いものにしたかった。
ブラックも、グロスブラックとマットブラックを併用することで、それぞれの黒を引き立てるようにしています。

――確かに、カラーバランスが絶妙な仕上がりで、カスタムオーダーを受けたビルダーが一瞬躊躇するような、そんな挑戦的なバイクにも思えました。
個人でも手軽にカスタムを楽しんでもらいたいですね。難しいところは僕らがすでに手を加えているので。
いじる楽しみを残しておきたいという想いもあって、この仕上がりとなりました。


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