2015年3月15日日曜日

ハリルホジッチも頭を抱える日本サッカーの現状

試合後、思っていた以上に困難なことが待ち受けていることをハリルホジッチ新監督は感じられたことでしょう。

先頃、サッカー日本代表監督に就任したヴァヒド・ハリルホジッチ氏。旧ユーゴスラビア出身のフランス国籍という彼について、何かを語るには情報が少なすぎますし、むしろこれからの彼の采配や指導を見ながら見定めていくのが良いと思います。

就任会見の翌日に観戦したJリーグ、FC東京vs横浜F.マリノス(味の素スタジアム/結果は0-0のスコアレスドロー)を視察したハリルホジッチ監督は、「もう少しやる気や力強さを見せてくれれば」というコメントを残したと聞きます。

ネガティブな言葉だけ引き合いに出すのもいかがかとは思いますが、少なくともその試合を観た者ならば、彼が小さくない落胆を抱いていることは明白ですし、その言葉の重みを感じ入らずにはいられないのではないでしょうか。

とても開幕2試合めとは思えない怠慢な試合でした。ゴールが決まらなかったことは問題ではなく、ゴールに対する意識付けが両チームとも低いという事実が如実に表れていました。敵地に乗り込んだ横浜は、チームの中核を担う中村俊輔選手が怪我で離脱していることもあり、いまいち攻撃に緩急がつかず、ワンパターンなパフォーマンスに終始。

それ以上にひどかったのがFC東京。まず中盤でボールが落ち着かない。誰がこのチームの司令塔なのか、見ていて分からないほど。だから、アタッキングサード(ピッチを三分割して見た際の敵陣側/攻撃を活性化させねばならないゾーン)から先の展開が雑。ドリブルで仕掛けるも闇雲だから、周囲のフォローもないし、カンタンに敵につぶされる。サイドを切り崩しても、中央に誰が走り込んでどうかく乱させるかという約束事がないからでたらめなクロスがあがる。フォワードへのタテパスも意図がない(出し手と受け手の共通意識がない)からその先、二手三手先の崩しのイメージが見えず適当なシュートに終始する。仮にこの流れのなかで点が取れたとしても、それはアクシデントに他ならず、シーズンを通しての強さにはつながりません。

何より、ゴールへの気迫が感じられませんでした。

FC東京の選手には、「ホームで引き分けは負けに等しい」「そもそもホームで引き分けるのは恥ずかしい」という意識はなかったのでしょうか。なぜならば、残り10分を切っても基本陣形は変わらず、温度感すらないままタイムアップの笛を迎えたのですから。中継の最中、ハリルホジッチ監督があくびをするシーンが見られましたが、それも致し方なし。90分通して見せられるにはあまりに退屈な試合でした。これがJリーグ初観戦の人だったら、次からこの2チームの試合には足を運ばないでしょう。少なくとも味の素スタジアムに良い印象は抱けません。

日本人選手のスキルは、決して低くはありません。問題は、アウトプットの仕方。端的に言えば、ハングリー精神の欠如。これは日本代表にも共通して言えることですが、アジア勢など実力が劣る相手とやるときは極端にペースを落とし、強豪と対峙したら通常の2割増しなパワーを発揮するという悪癖が日本のチームにはあります。蔓延していると言ってもいい。

要するに、常に一定のペースで実力を発揮すれば安定した強さを手に入れられるわけで、その“一定のペース”をどこに設定するかが今後の課題。少なくともそのペース、礎たるJリーグではより高い位置を保ってもらわねば困ります。

ジーコがいた鹿島、ドゥンガがいた磐田など、全員のメンタリティを引き上げる人物の存在でチームの能力を引き出していたクラブはいくつかありました。ところが、近年ではこのロジックが通じなくなっているのです。分かりやすい例が、セレッソ大阪。ディエゴ・フォルランという世界屈指のゴールハンターが加わったにもかかわらず、チームはJ2降格。「柿谷や山口蛍が離脱したからチームのバランスが崩れた」というのも小さくない理由でしょうが、支払った年俸以上のモチベーションをもたらしてくれるであろうフォルランが存在感を示せなかったのは、セレッソだけの問題ではなく、日本サッカー全体の問題だと思うのです。

最たる理由が、若手選手の海外移籍の増加でしょう。近年、有望な若手がこぞって海外へと飛び出していっています。ヨーロッパだけでも20人以上の日本人選手がいる、そんな時代です。主にドイツやオランダのクラブが熱い視線を送っており、
・自国リーグのレベルに達している日本人選手が多い
・規律を重んじる国民性は起用しやすい
・移籍金が安い
というところが理由でしょう。元手が安いので、「当たればめっけもん。うまくいけば他クラブに高値で売れる」というところも作用しているかと思います。

Jリーガーの収入は、プロ野球に比べてもかなり少ないと聞きます。誰もが夢見る華やかな生活を送れている選手はトップのほんの一握りで、J1所属でもギリギリの生活を強いられている選手もいると聞きます。彼らに給料を支払うクラブも財政的には厳しいところが多いので、当然大物選手を獲るのは難しい。結果、リーグのレベルは着実に低下し、合わせて選手のモチベーションも低下しているという悪循環に陥っているのです。

そんなJリーグに大物外国人が来ても、もはや珍しくもなんともなく、「腰掛けで来てるんでしょ」感がにじみ出てしまうという実情。彼らにとって、ヨーロッパの第一線で戦う選手の方が憧れであり刺激であり、だから海外に飛び出て高いレベルに触れようとするわけです。ぬるま湯のJリーグにフォルランが来てもしらけるだけ、おそらく本音はそのあたりかな、と。

さらに大きな問題が、若年層のレベルの低下でしょう。かつてワールドユースと呼ばれたFIFA U-20ワールドカップ(20歳以下の選手だけで編成された代表チームのW杯)に、日本は4大会連続でアジア予選敗退という憂き目に合っています。小野伸二、高原直泰、稲本潤一、中田浩二らを擁した黄金世代がこの大会で準優勝したのは1999年ナイジェリア大会。以降、グループリーグ敗退、ベスト8、ベスト16、ベスト16と続き、その後は本大会にすら進めていません。有望な若年層の国際経験が減っていることは、由々しき事態です。

この年代で国際経験を積めば、その後のキャリアに大きな変化が生まれるのは中田英寿をはじめとする世代で立証済み。最終的に海外クラブにキャリアの頂点を求めることは否定しませんが、この世代が猛者集う国際試合を経験する場を減らしてしまっていることが、Jリーグに大きな影を落としているように思えてなりません。

冒頭のFC東京vs横浜F.マリノスの試合について、たった一試合ですべてを語るのは酷ですが、こうした国際経験の少なさが国内リーグの気迫を奪っているのではないでしょうか。世界屈指のタレントとやりあった若手が「こんな状態じゃ世界相手に通用しない」とプレーレベルを他に合わせず、ハイテンポで試合を進める意識を持てば、その空気感はチームに伝播し、自ずとレベルが引き上げられようというもの。ジーコやドゥンガがそうしたように。

このまま若い選手が世界大会を経験する場を減らせば減らすほど、Jリーグに暗い影を落とすような気がしてなりません。これは日本サッカー協会が取り組むことであり、代表の新監督が解決できる問題ではありません。

W杯ブラジル大会でアルジェリアを決勝トーナメントに導いた名将の手腕をあげつらって期待するのは結構ですが、彼がどれほどの名将であっても、日本サッカーに横たわる大きな闇を払拭するのは到底不可能。結果的に、現有戦力でベストのチームを作って結果を残す他ないわけで、よしんば次のロシア大会まで勝ち進めたとしても、次の4年はまたゼロからの構築。こんなことをしていて、日本代表が安定した強さを手に入れられるはずがありません。

ハリルホジッチ監督を否定も肯定もしませんが、期待することもありません。なぜならば、彼はロシア大会までの3年間のために雇われた傭兵で、契約が終わればサヨウナラだからです。私たち日本人にとって、日本代表は永遠に付き合わねばならない存在ですし、考えるべきはハリルホジッチ監督のブランド性ではなく、何十年も先まで安定した実力を発揮するための地盤づくり。その地盤さえできれば、日本人監督が指揮を執ったって結果を出せるんです。

なんだかハリルホジッチ監督の人柄や過去の実績を取り上げるメディアが多いようですが、そんな情報に一喜一憂はしたくないものですね。

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