2015年7月6日月曜日

惨敗ながら清々しさを与えてくれたなでしこジャパンの戦いぶりに拍手

■スコア差を感じさせなかったなでしこの気迫
W杯のファイナルで、優勝まであと一歩まで近づきながら準優勝に終わったなでしこジャパン。2-5という誰が見ても惨敗にしか見えないスコアながら、ほぼ互角の実力を持つ者同士では?と思えるほどの気迫あふれる試合内容で、清々しさを感じさせてくれるゲームでした。

開始16分で4失点。スコアだけ聞かされれば、この時点で終戦です。2012W杯ブラジル大会の準決勝で、ドイツに7失点を喫したブラジルの姿が重なって見えました。ちょっとした歯車の食い違いから最初の失点が生まれ、修正が間に合わないままあれよあれよと失点を重ねる。気持ちが緩んでいたわけでもなく、出会い頭の衝突事故が大惨事になったというところ。

ところが、彼女らの目は死んでいませんでした。

後半9分の段階で2-5の3点差と、セーフティーリードのままこう着状態へ。しかしながら、ボール際の激しい攻防を見ていると、とても3点差がついた試合には見えないのです。ここまで絶望的なスコアになると、“あと一歩”を出すのが難しくなります。諦めの気持ちが全身を覆い尽くし、「もう勝つのは難しい」と頭をよぎった段階でその“あと一歩”が踏み出せなくなる。ましてや相手は実力伯仲の強豪です、カンタンに3点を献上してくれるほどお人好しではありません。7失点したときのブラジルはまさにそれでした。

ところが後半30分を過ぎても、なでしこの選手たちはボールに食らいつき、フィジカルで勝るアメリカに肉弾戦を挑んでいきました。自分との背丈が20cm近く違う巨漢に体ごとぶつかっていく岩渕の姿に、本気で諦めていない執念を感じさせられました。そんななでしこの気迫に圧されてか、ボールキープしていれば難なく優勝トロフィーを手に入れられるアメリカにも緊張感が走り、スコアに似つかない攻防を繰り広げることになったのです。

象徴的だったシーンが、アディショナルタイムを含んだ数分間のプレー。日本はGK海堀を残して全員がアメリカ陣内へと入り、ゴール前へ執拗にロビングボールが放り込み、肉弾戦でのゴール奪取を狙ったのです。こういうシーンはサッカーでは珍しくない“最後の捨て身戦法”ですが、一点差の緊迫した試合でのことがほとんど。もはや同点の望みさえない状況下でこの気迫、そして勝利への執念に、ただただ心を打たれました。


■チャンピオンに与えられし“勝者のメンタリティ”

思えば、本大会前から下馬評が高くなかったなでしこジャパン。ところがフタを開けてみれば、際どくも勝利という結果をもぎとり、ファイナルまで勝ち上がってきたのです。これほどのスコアになるとは予想だにしていませんでしたが、この試合を見れば、強靭なメンタルに支えられた選手はカンタンに屈しないということを思い知らされます。

チャンピオンにだけ与えられる、勝者のメンタリティでしょう。

皮肉にも分かりやすい比較が、男子サッカー日本代表のシンガポール戦です。サッカーという競技はあらゆる不確定要素で成り立っているので、どれだけ相手が格下であれ、他競技以上にジャイアントキリングの確立が高いのです。とはいえ、あのシンガポール戦は負け同然の引き分け。“絶対勝利”というハードルはこのうえなく高く不条理極まりないものですが、それでも勝ちきる強さなくして、W杯本大会で結果を出すなど不可能。それは、5大会連続で本大会に進出している代表チームがよく知っているはず。

勝つことで得られるもの、負けることで失うもの、それぞれを痛いほど知っているなでしこジャパンだからこそ、あれほどのスコア差でも「ひっくり返してやる」という気迫溢れるプレーを90分間続けられたのでしょう。

両方の試合を観た方ならお分かりでしょう、シンガポールから1点が取れずにいた男子日本代表からは、彼女らのようなほとばしる気迫をまったく感じませんでした。メンタルや気迫という、姿形が見えないものではありますが、“あと一歩”が出るかどうかが、勝敗を分ける決め手となるのです。その“あと一歩”を踏み出して男子は今の地位を手に入れたと思うのですが、どうやらどこかで“大切な何か”を失ってきたんじゃないでしょうか。

W杯を終え、再出発となるなでしこジャパン。そして、改めてテコ入れせねばならない男子日本代表。いずれも『リスタート』をしていくタイミングなのですが、ここで興味深いデータを算出してみました。今後のそれぞれのメンバー編成を見ていくうえでの基準となる、過去数大会におけるメンバーの平均年齢です。


■男女とも取り組まねばならない世代交代
男子は2002日韓大会から、女子は優勝した2011ドイツ大会から(五輪含む)のデータです。

男女サッカー代表 ワールドカップ年代別 平均年齢
[男子サッカー日本代表]
・2002年 日韓大会:25.2歳 (ベスト16/フィリップ・トルシエ監督)
(最年長34歳 中山雅史 / 最年少22歳 中田浩二 & 小野伸二 & 市川大祐)
・2006年 ドイツ大会:27.2歳 (GL敗退/ジーコ監督)
(最年長32歳 土肥洋一 / 最年少24歳 茂庭照幸 & 駒野友一)
・2010年 南アフリカ大会:27.8歳 (ベスト16/岡田武史監督)
(最年長34歳 楢崎正剛 & 川口能活 / 最年少22歳 内田篤人 & 森本貴幸)
・2014年 ブラジル大会:26.8歳 (GL敗退/アルベルト・ザッケローニ監督)
(最年長34歳 遠藤保仁 / 最年少23歳 酒井高徳 & 山口蛍)

[女子サッカー日本代表]
・2011 W杯ドイツ大会:25.2歳 (優勝/佐々木則夫監督)
(最年長36歳 山郷のぞみ / 最年少18歳 岩渕真奈)
・2012 ロンドン五輪:26.3歳 (準優勝/佐々木則夫監督)
(最年長34歳 澤穂希 / 最年少19歳 岩渕真奈)
・2015 W杯カナダ大会:27.7歳 (準優勝/佐々木則夫監督)
(最年長36歳 澤穂希 / 最年少22歳 岩渕真奈)

まず男子ですが、2002日韓大会こそかなり若いものの、平均年齢はもちろん、最年長&最年少に大きな振れ幅はありません。つまり、比較的安定した人材供給ができているということ。ただ、グループリーグで敗退したブラジル大会の主力メンバーがほぼ固定で残っているという現状はいかがなものか、と思う次第です。ほかにも有能な選手がいるわけですから、予選を通じて新戦力の発掘に注力すべきでは。

特になでしこジャパンと比較しても、マンネリ化からか気持ちが入っていない選手が少なくない印象です。チームそのものに緊張感を与える意味でも、「代表チームに入りたい」「W杯に行きたい」というどん欲な気持ちの選手を積極的に使っていただきたい。おそらくハリルホジッチ監督もなでしこの試合はご覧になられていたでしょうから、今一度選考について検討してほしいですね。

そしてなでしこジャパンですが、以前から指摘されている「高齢化」と「同じ顔ぶれ」がそのままデータに出た結果に。今大会を機に代表を引退される(であろう)澤はともかく、新戦力の発掘は急務と言えます。もちろん、“強いなでしこ”のメンタルを引き継がせつつ……。

結果が出ていることで継続起用されている佐々木監督についても、次の大会で優勝を目指すのであれば、後進の育成にまわっていただくことで新指揮官に交代する時期とも思います。いろんな意味で、頭打ちという状況であることは否定しようがありません。

結果的に惨敗、準優勝という不本意な結果ながら、それを微塵も感じさせない戦いぶりで清々しさをもたらしてくれたなでしこジャパンには「お疲れ様でした」という労いの言葉をおかけしたいです。そして、「プロスポーツにおける重要なものとは何か」ということを身をもって示してくれたことに、ただただ感謝するばかり。

文字どおり、彼女らの戦いぶりは大和撫子の呼び名にふさわしいものでした。

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