2014年7月6日日曜日

コスタリカの快進撃に見る“日本に足りないもの”

■清々しかったコスタリカの戦いぶり
W杯ブラジル大会は準々決勝の日程を終え、ブラジル、ドイツ、アルゼンチン、オランダがベスト4として準決勝へとコマを進めました。

この準々決勝のなかで個人的に注目していたのは、オランダと対峙したコスタリカ。中米に位置する九州と同じぐらいの面積の国は、大会前の下馬評を覆し、1990年W杯イタリア大会でのベスト16という最高成績を更新する快進撃を見せました。しかもイタリア、イングランド、ウルグアイという世界の列強国と同じ“死のグループ”を首位で突破するという快挙まで。

残念ながらその足をとめることとなった準々決勝オランダ戦においても、情熱的かつしたたかな試合運びを見せてくれました。まるでイタリア代表のカテナチオをほうふつさせる超守備的布陣でゴール前を守り、スコアレスドローで120分間を耐え続けたのです。おそらくヨハン・クライフには「世界一つまらないサッカー」と評されることでしょうが、一発勝負の決勝トーナメントで圧倒的な攻撃力を誇るオランダと自分たちの力量を推し量り、導き出した唯一の戦法だったに違いありません。

そう、コスタリカは最初からPK戦狙いだったのでしょう。もちろん、あわよくばカウンターで一発というイメージも持っていたでしょうが、大前提は「オランダに一点もやらないこと」。勝負に徹したリアリストとして、控え選手も含めた23名の選手が任務をまっとうしたということです。PK戦への突入が告げられた120分間の試合を終えるホイッスルが鳴った際のコスタリカの喜びようを見れば、ミッションを成し遂げた達成感が伝わってこようというもの。次のアルゼンチン戦を想定し、90分間で試合を終えたかったであろうオランダの歯がゆい表情とは対照的でした。

結果的にPK戦で敗北を喫したコスタリカでしたが、試合後の晴れ晴れとした表情は見ていて爽快でした。コロンビアとの戦いを終えた日本代表の面々とはまったくの真逆。同じ敗者でも、すべてを出し切った者と不完全燃焼の者とではこうも差が出るのか、と思わされるほど。

日本はW杯前、コスタリカと親善試合を行い、彼らを退けています。もちろんその一試合だけで彼らと因縁づけてしまうのは安直ではありますが、何がここまで明暗を分けたのだろう。改めて、コスタリカという国を調べてみました。


■快進撃の原動力を考察する
正式名称はコスタリカ共和国。アメリカ大陸のほぼど真ん中、ニカラグアとパナマに挟まれたカリブ海の小国で、前述したとおり九州よりもやや大きいぐらいの国土を持ちます。かつてスペインに植民地とされた歴史を持つことから、メキシコやアルゼンチンなどと同じく公用語はスペイン語。人口は2008年時の総計で約460万人。2010年当時の福岡県の人口が約500万人ですから、大国と比べるまでもないでしょう。

盛んなスポーツはサッカー。スペイン語圏と考えれば納得できそうですが、国民的スポーツというほどの好成績を残しているわけではありません。ことW杯に関して言えば、初出場を成し遂げた1990年イタリア大会からの成績を見てみましょう。

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・1990 イタリア大会/ベスト16
・1994 アメリカ大会/北中米カリブ海予選敗退
・1998 フランス大会/北中米カリブ海予選敗退
・2002 日韓大会/グループリーグ敗退
・2006 ドイツ大会/グループリーグ敗退
・2010 南アフリカ大会/北中米カリブ海予選で敗退
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旧ユーゴスラビアの名将ボラ・ミルティノビッチに率いられた1990年イタリア大会で初出場にしてベスト16という快挙を達成しましたが、以降の成績を見ればさっぱり。この北中米カリブ海地区には強豪メキシコに加え、1994年の自国開催から一気に力をつけてきたアメリカの存在があります。また、1990年代にはジャマイカやホンジュラスという国の台頭もあり、その後塵を拝んでいたのでしょう。国民的人気と言われてはいますが、その実力は人気に比例していないようです。北中米カリブ海サッカー連盟が主催するCONCACAFゴールドカップでは優勝と準優勝を繰り返していますが、もしかしたら内弁慶?

人気のスポーツと言われるぐらいですから、当然国内リーグだってあります。一方で、海外のクラブに所属している選手も少なくありません。面白いので、日本代表と比較してみました。

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2014W杯ブラジル大会メンバー23名の内訳
[日本代表]
・国内クラブ所属:11名
・海外クラブ所属:12名

[コスタリカ代表]
・国内クラブ所属:9名
・海外クラブ所属:14名
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非常に興味深い結果になりました。コスタリカの海外組のうち、3名は立地的に遠くはない米MLSのクラブ所属ですが、他はすべてヨーロッパ。ちなみに、前線で体を張っていたオリンピアコス(ギリシャ)所属のFWキャンベルは英アーセナルからのレンタル期間中で、PSV(オランダ)所属の司令塔ルイス、レバンテ(スペイン)所属の不動の守護神ナバスといった主力以外は、スイスのほか、ロシア、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーといった寒い国の中堅クラブの名が並びます。北欧エリアとの強いネットワークがあるのかもしれませんが、決してレベルが高いとは言い難いヨーロッパへの進出は、国内リーグとのレベル差云々というよりは出稼ぎの要素が強いように思えます。

これはずいぶん大きな差です。代表招集となった際、ビジネスクラスの直行便(トランジットがあったとしてもせいぜい一回でしょう)で帰ってくる日本代表と違い、コスタリカの海外組は相当に困難なものと思われます。また、いずれも渡航費はともに協会持ちではあるでしょうが、財政面で日本とコスタリカでは大きな開きがあります。一回の帰国がどれほど大きな負担か。それだけで、コスタリカが置かれている状況は日本以上に厳しいことは想像に難くありません。


■日本以上にチームとしての完成度は高かった
そんな海外組の多いコスタリカですが、チームとしての統一感、意識の共有は日本以上だったと言っていいでしょう。実は今回、日本代表と比較しようと思った最大の理由は、コスタリカの戦い方にありました。タレント力に秀でるFWキャンベルを前線に置き、堅守速攻で強敵に挑むさまは、4年前の南アフリカ大会でサプライズと言われた日本代表の戦い方と似ていたからです。

4年前、ボールポゼッションで優位性を保つサッカーを目指していた岡田武史監督(当時)率いる日本代表は、直前までの親善試合の結果が芳しくなかったことから、大会直前にして急遽戦術変更を執行しました。決してレギュラーとは言い難かった本田圭祐をワントップとし、両脇に大久保嘉人、松井大輔を座らせる疑似3トップ。中盤は阿部勇樹をアンカーに遠藤保仁、長谷部誠が並ぶ3枚とし、フォーメーションは4-1-4-1とも言えるもので、実際は本田圭祐はポスト役を任されたMFですから、フォワードがいないいわゆるゼロトップフォーメーションでした。

決してまったく同じだったとは言いませんが、まず守備ありきの堅守速攻型チームで、本大会を通じてその得点力もさることながら、「チームのために」といううちなる声が聞こえてきそうな前線で潰れ役を買って出たキャンベルの存在が際立っていました。ちなみにコスタリカはW杯直前、エースストライカーのアルバロ・サボリオが怪我で離脱していたのです。キャンベルにかかる期待とプレッシャーは相当大きなものとなっていたでしょう。

ルイスやナバスといったタレント力に秀でた選手はもちろん、各ポジションで役割をまっとうした他の選手の動きも実に献身的。“死のグループ”を前にして諦めることなくチームを鼓舞し、持てる力を最大限に発揮できるチームへと仕上げたホルヘ・ルイス・ピント監督の手腕はお見事のひとこと。

おそらく個々のタレントという点で見れば、日本代表と遜色ないか、もしくは日本が上かもしれません。にもかかわらず、日本よりも厳しいグループを突破できたコスタリカは、あらゆる相手に対してすべて組織力で対抗していました。個々のタレントで勝負したら大敗を喫することを自覚していたからこその戦い方だったのでしょう。

そう、日本代表との大きな差は、自己犠牲の精神、チームに捧げる忠誠心、そして……勇気です。


■新指揮官との交渉の前にやるべきことがある
コスタリカと照らし合わせれば明白ですが、日本には自己犠牲の精神が大きく欠けていました。4年前の実績に自惚れ、メガクラブに所属する選手を抱えることで過信し、ブラジルやアルゼンチン、オランダと比べて個で劣ることを理解しているにもかかわらず組織力を高める努力を怠った。結果がすべてという言い方をすれば、今回のGL敗退は4年前から答えが出ていたということになります。

コンパクトなゾーンを保ち、そのなかでプレスをかけてボールを奪取、そこから素早くボールを動かして敵陣へと攻め入り、FWだけでなくMFからDFにいたるまで全員で相手ゴールを強襲する。

キモとなるのは“ボールの奪い方”ですが、フィジカル面を含め、個々の能力で劣るからには全員でカバーし合いながら畳み掛けねばなりません。ところがこれまでの親善試合はともかく、大事な初戦コートジボワール戦ではFW大迫と本田のみがチェイシングするのみで、ふたりが空振ると途端に大きなゾーンが空いてしまう始末。ピッチコンディションや高温多湿な状況を懸念したという声も聞こえましたが、4年も一緒にやってきていればこういう状況での戦い方ぐらい共有しているはず。大前提である“チームとしての意識共有”がなかったことが大きな敗因ですが、この負け方をして「4年間積み重ねてきたもの」「自分たちのサッカーを」と言われても、僕は頭のうえにクエスチョンマークしか浮かびません。

結果的に、組織として戦うため、チーム力を向上させるための勇気がないチームだったということです。選手もそうですが、監督のザッケローニも同罪、いやそれ以上でしょうか。国を背負っている責任感が希薄だったのでしょうし、そうさせたのもすべては過信から。「驕れる平家は久しからず」とは、日本の歴史が生んだ名言なんですが、“驕ることなく謙虚に戦う”という日本古来の美徳をコスタリカに見せつけられたんじゃ、世話ありません。

オランダと対峙したコスタリカの戦いぶりはすさまじいものでした。完全にゴール前を固めつつも、スキあらばカウンターを見舞う攻めの姿勢も忘れていない。ひとりひとりが課せられた任務を遂行し、運をも味方につけて0-0という最低限のミッションを成し遂げたのです。ここまで熱いものを感じさせてくれるスコアレスドローの試合なんて、そうそうあるものではありません。もし次のアルゼンチンに敗れるようなことがあれば、このコスタリカとの一戦を引き合いに出すオランダの選手がいることでしょう。


■今一度、自分たちの立ち位置を見直そう
「世界を驚かせよう。君たちにはそれができる」

コスタリカを率いたコロンビア人指揮官は、きっと選手たちにこう言ったに違いありません。イタリア、イングランド、ウルグアイという国々を前に言われても鵜呑みにはできないところでしょうが、それを信じさせるだけの信頼をピント監督は選手から勝ち得ていたというわけです。改めて彼のマネジメント能力を分析してみたいと思うほど。

4年前の日本も、同じように“身の丈に合った”戦い方を選び、ベスト16という結果を手にしました。「手応えは掴んだ。俺たちはもっとやれる」という意気込みは素晴らしいものでしたが、なぜか思いもよらぬ方向へと向いていったのです。

将来につながる自分たちのサッカーを貫く……。大事なことですが、どんな戦い方であれ、勝つことで得られるものもあります。それを学んだのが4年前の南アフリカだったのですが、監督が代わり、選手との意識共有があやふやなまま4年という月日を過ごしてしまったため、4年前の経験の上乗せができず、逆に後退するかのような結果を生んでしまった。出てしまった結果に対してごちゃごちゃ言っても仕方ないのですが、今回の件もきちんとした教訓として整理しておかないと、次、さらにその先へと活かしていけません。勝っても負けても、反省することは山ほどあります。強豪国ですら、いつでも勝ち続けているわけではないのだから。

皮肉ついでで言わせてもらうと、推定年俸2億4000万円と言われるザッケローニ監督に対し、ホルヘ・ルイス・ピント監督の年俸は約5000万円だと言います。コストパフォーマンスという点でも大きく水をあけられていますね。2億5000万円からさらに値段を釣り上げようとしているメキシコ人相手に振り回されるよりも、もっとやれることがあるんじゃないですか? 日本サッカー協会の皆さん。これまでどおりじゃ、昔ネルシーニョに言われた“腐ったミカン”のままですよ。

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