2015年8月6日木曜日

ようやくスタートラインに立った日本サッカー

【東アジアカップ2015】 男子サッカー日本代表 第二戦
vs 韓国 2015/08/05 @ 武漢スポーツセンター
スコア:1-1△


■これが日本サッカーの現在位置
あまりの不甲斐ない戦いぶりに、ネット上ではハリルホジッチ監督の手腕に対する疑問の声や選手の力量不足に対して、かなり荒々しい声が飛び交っているようです。確かにこの韓国との一戦に望んだ日本代表チームのクオリティは、ここ数年でもっともレベルが低いものだったと言えます。もちろん、北朝鮮戦から引き続いて、です。おそらく最後の中国戦でも、劇的な変化は望めないでしょう。

韓国のシュティーリケ監督は「日本がこんな守備的な戦い方をするとは思わなかった」と言っていたそうですが、狙ってやったのではなく、それしかできなかったというのが本当のところでしょう。ここは国際経験の浅さがモロに出たところでしょうが、とにかくボールが落ち着かない。マイボールになってもすぐにロストしてしまう。簡単に相手にボールを渡してしまうから、走らされる時間が増え、疲労がどんどん蓄積していく。北朝鮮戦で自分たちの実力が否定されての韓国戦で、まったく自分たちのペースが作れず、気持ちまで悪循環に陥っていくのが手に取るように分かりました。

そんな矢先の、前半25分のPK献上。失点後、試合は完全に韓国ペースに。日本の選手の顔からは、代表としての自信の欠片すら感じ取れませんでした。

そこで生まれた39分の山口蛍の同点ゴール。しっかりとコントロールされたミドルはお見事という他なく、同時に日本チームを悪循環から解き放つ一撃でもありました。事実、このゴールを機に前半終了までは日本のペースになったのですから。やはりゴールは何ものにも代え難い良薬、どんなに劣勢でも問答無用の一発で試合がひっくり返ってしまうのがサッカーの面白いところですね。

ところが後半、再び韓国ペースとなり、そのまま大きな見せ場もないまま試合終了。日本のクオリティの低さはもちろんですが、それ以上に「最近の韓国って全然怖くないな」という印象を抱いたほどでした。

溜まりに溜まったツケが、ようやく吐き出されつつあります。


■海外組中心のチームづくりが生んだ弊害
「こんな弱い日本代表、見たことない!」

まるでそう言いたげな声が、今まさにネット上で飛び交っているようです。ブラジルW杯やアジアカップでの惨敗を思えば、日本代表の立ち位置をどのあたりで考えていたのか甚だ疑問ではありますが、とはいえ東アジアカップの2試合を観た段階で言えば、代表チームのレベルはあまりに低い。

スキル云々ではなく、メンタルの問題でしょう。代表チームに選ばれている責務を自信に転嫁できている選手がとにかく少ない。見ていると、ピッチに立つことに怯えているんじゃないかと思えるほど、覇気の欠片も感じられないのです。

答えはひとつ、国際経験のなさ。

Jリーグで活躍すれば、代表チームに呼ばれ、さまざまな国の代表チームとの試合を経験し、選手をレベルアップさせます。その選手がクラブに戻ってさらに活躍することで、Jリーグそのもののレベルが高まり、より質の高い選手が台頭してくる……。1993年に発足した当時のJリーグが目指していた姿であり、1990年代後半のJリーグに目を向けると、中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一、柳沢敦などなど、枚挙に暇がないほど質の高い選手がどんどん現れてきていました。彼らに匹敵する実力の持ち主も数多く存在しましたが、結果としては中田らが代表チームでのサバイバルに勝った、ということです。

Jリーグ=日本代表という構図は、今後も変わりません。今回の東アジアカップに挑んでいるメンバーは、まさに最たる例。それがこの体たらくということは、Jリーグそのものが国際レベルに達していない証拠でもあるということ。

しかしながら、選手に責任はないと思います。なぜならば、ここ10年以上、Jリーグでどれだけ活躍しても代表チームに呼ばれないということが当たり前のようになっていたから。

海外組中心のチームづくりによる弊害です。

2000年以降、Jリーグからいきなりレベルの高い海外クラブに移籍する選手が急増しました。質の高い選手にとってより良いことではあるのですが、結果、その海外組だけでチームが作れるようになり、Jリーガーたちは控え扱いを受けるようになったのです。2006年ドイツW杯での遠藤保仁、Jリーグ得点王に輝きながらロクなチャンスも与えられない佐藤寿人、大久保嘉人が最たる例と言えるでしょう。


■気の抜けた発泡酒しかない高級クラブ
やたらと国内でのマッチメークが多い日本代表。協会自らが高い渡航費を支払って海外組を呼び寄せ、まるでアイドルコンサートのような興行試合をこなしています。試合は常に満員御礼、グッズも飛ぶように売れ、日本サッカー協会は海外組の渡航費となけなしのファイトマネーを支出するだけで大儲けできるというシステムが出来上がりました。

そこに、育成の理念は存在しませんでした。

今回の日本代表が弱いとお嘆きの方が少なくないようですが、僕は以前、このレベルの代表チームを見たことがあります。それは2006年、イビチャ・オシムが日本代表監督に就任した当初の日本代表です。それまでのジーコ率いる日本代表では、黄金世代と呼ばれるスター選手の名前ばかりが並んでいましたが、オシム体制になった途端、サッカーに詳しくない人であれば「誰それ?」というJリーガーばかりが選ばれるようになったのです。

「日本代表を、日本化する」

オシムはそう宣言し、目指すべき日本サッカーの姿を掲げ、日本サッカーの底辺そのものを底上げすべく、国内組中心のチームづくりを進めていこうとしました。初期のオシム日本代表チームといったら、今回の東アジアカップのチームぐらいひどかった。噛み合ないコンビネーションと戸惑う選手の姿は、にわかファンの足をスタジアムから遠のかせ、当日券すら完売しないという有り様を生むほどに。

それでも時間をかけて煮詰められたオシム日本代表は次第に実力をつけていき、オシムの目指す「日本化」の断片を見せてくれるほどのたくましさを感じさせてくれました。残念ながらその後、オシムは病に倒れ、後任の岡田武史からその体制が継続されることはなくなってしまったのです。

日本サッカーは弱い。

オシム時代から数えてちょうど10年。岡田、ザッケローニ、アギーレと続けて見過ごしてきた日本サッカーの膿みがここですべて吐き出されたと言っていいでしょう。もはやハリルホジッチは被害者という他ありません。世界で名の通ったボトルを並べると噂の高級クラブに入ったら、気の抜けた発泡酒しか置いていなかったというようなもの。「この発泡酒を高級ワインのように熟成させてくれ」と言われてもどだい無理な注文です。そりゃ協会に噛み付きたくもなりますよ。


■愛ある声が、選手を動かす
日本代表は急に弱くなったわけではありません。貧富の格差として見れば分かりやすいですが、極端に優れたエリートだけを優遇していただけのことで、安定したパフォーマンスを発揮するアベレージは実はこの程度だったというだけのこと。むしろ、ようやく当たり前の強化を行えるスタートラインに立てた喜びの方が大きいですね。

10年間も強化と育成を放置したのは、他ならぬ日本サッカー協会でしょう。巨額のお金をまわさなければ身動きすらとれない肥満体となった彼らが、まっとうな強化策に取り組まない限り、日本サッカーが今以上に強くなることはありません。

ハリルホジッチについては、次のW杯予選でのメンバー如何で彼のスタンスが見えると思っています。海外組中心のチームづくりになれば、ロシア大会までの契約期間を割り切ってこなす傭兵タイプということで、オシムのような「日本人のレベルを底上げさせる」「育成する」というスタンスとは対極に位置します。

かといって、彼を責めることなどできません。彼は日本サッカー協会に雇われてきた外国人指揮官で、契約が終わればそれっきりの間柄。契約条項に「日本人選手の育成」などとは書かれていないのですから。

日本人選手の育成まで見据えた指揮官となると、日本人監督をおいて他にありません。正直言って、選手の育成すらままならない協会が指導者の育成に手がまわっているかと言われれば甚だ疑問ですが、かといってこの問題を先送りにすればするほど、ツケはどんどん溜まっていくだけのこと。後で困るのは、自分たち自身なのですから。

では、その協会を動かすのは?

他ならぬサポーターです。

目の前で繰り広げられているサッカーそのものをしっかり見て、善し悪しを判断し、その想いを声に出して訴えかける。良いプレーには賞賛の声を、怠惰なプレーには叱責を。選手や指導者を育てる一番の源は応援する人の声に他なりません。サポーター自身が、サッカーを観る目を肥えさせなければ、選手や指導者の心にその声が響くことはありません。少なくとも「オー、ニッポンー」と90分間単調に唄い続けるだけのサポーターでは、選手の心を動かすのはまず無理でしょう。

もっとサッカーを楽しみ、サッカーを知り、サッカーについて語り合う。その姿勢と声が現場を動かし、より高い頂へと押し上げようとする原動力となるのです。サポーターも選手と同様、勝利を渇望するハートを持たねば、勝てるものも勝てません。サッカーが盛んなブラジルやイングランド、イタリア、ドイツ、スペイン、アルゼンチンといった強豪国は、そうして今の地位を確立してきたのですから。

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