2015年2月3日火曜日

【アギーレ解任】クライアントに翻弄される日本サッカー協会

■日本代表チームは所詮金儲けの道具?
2月3日(火)、日本サッカー協会は日本代表チームの監督を務めるメキシコ人指揮官 ハビエル・アギーレ氏の解任を発表しました。理由は推して知るべし、彼がかつて所属していたスペイン・リーガエスパニョーラのチーム、サラゴサが、降格争いにかかわる試合に際して起こったとされる八百長疑惑問題です。スペインの裁判所への告発状が受理されたのを受け、解任を決定したと大仁邦弥会長からの発表でした。

先に結論を言っちゃいますが、金儲けのためだけに出資していたクライアントに日本サッカー協会が解任を強いられた。これが真実でしょう。

真っ当な争点として挙げるなら、“アギーレを信じるか信じないか”だったと思います。八百長疑惑が発覚した際、サッカー協会はアギーレへのヒアリングを行ないました。その席で、彼は「やっていない。潔白だ」と言いました。八百長した人間が「ハイ、やりました」なんて言うはずもありませんが、本人は真っ向から否定したのです。あとは、協会がその言葉を信じるか信じないか。

「4年越しのオファーが実った」という、アギーレ氏の監督就任会見における原専務理事の想いからすれば、彼の解任はカンタンではなかったはず。アジアカップこそベスト8で敗退しましたが、アギーレ氏は高い指揮能力を発揮し、ベストを尽くしました。指揮官として見れば、間違いなく歴代屈指。今回の解任は、苦渋の決断だったと思います。

恐らくクライアントおよび代理店からの圧力でしょう。


■自分で動けなくなった大食漢のよう

サッカー日本代表チームは、大きな集客が見込める日本屈指のコンテンツ。海外のクラブで活躍するスター選手が集まり、オールスターチームさながらに他国をなぎ倒していくさまは、日本人のアイデンティティを強く刺激し、サポーターという呼び名以上の情熱を国民に注ぎ込みます。それも、スポーツという同じ条件の競技のもとで。

そのアイデンティティを刺激することが日本サッカーのビジネスの核で、その中軸である日本サッカー協会には、大手広告代理店や大手クライアントが我先にと集まり、気がつけばコントロール不能なほど肥大化していきました。

思い出してみてください。今から約20年前、1997年まで、日本サッカーはワールドカップに出場できないでいました。ドーハの悲劇と呼ばれる壁に跳ね返されたこともありました。しかし、今では5大会連続出場をはたし、アジア屈指の強豪国として知られるほどに。土台となったのはJリーグに他なりませんが、20年前と比べて、確かに日本サッカーは格段に強くなりました。

そして、ビジネスも巨大になった。

今回のアギーレ解任は、おそらく某大手代理店からの圧力でしょう。疑惑の人物が代表チームの指揮を執っているとなると、桶に張った水に墨汁を落としたときのように、代理店、そしてクライアントへと疑惑の色は広まっていきます。ちょっとしたことで蜂の巣を突いたように騒ぎが広まる現代社会において、どこの企業も不必要な負の情報は背負いたくありません。そうしたクライアントの声が代理店へと伝わり、サッカー協会に解任を強いたものと思います。


■アギーレ擁護の姿勢を示したサッカー協会だが……

そもそも大仁会長はアジアカップ敗退後、「それでもアギーレには監督を続けてもらう」と言っていたのです。ある程度サッカーを知る人間が見れば、アギーレ氏の手腕は疑いの余地がないもの。確かに八百長疑惑というのは有り難くないスキャンダルですが、ここで彼を解任したところで、そのあとアギーレ氏以上の実力者が日本代表監督を引き受けてくれるかは未知数。いや、ブラジル大会で一勝もあげられなかったアジアの極東にある国の代表監督をやろうという著名な人物など、まず見つかるはずがありません。大仁会長の言葉は、そうした“サッカー協会の長”らしいさまざまな要素を含んだものでした。

それが、この手のひら返し。決してサッカー協会を責めているわけではありません。要するに、「日本サッカーをより良くしたい」という想いとはまったく異なるベクトルの力が働いたことによるアギーレ氏解任劇だというわけです。

自社ビルをかまえるほど巨大になった日本サッカー協会。現在出資してくれているクライアントがどれほどの数あるのか存じませんが、大手企業が一社手を引くだけで、そのダメージたるや相当のものでしょう。ともすれば、協会の現状維持をも困難にする可能性もあったはず。

当然、そんな事情を記者会見で言えるはずもありません。確かに“八百長疑惑に端を発する告発状の受理”というのは、体裁のいい理由付けとなりました。突っつけば、告発状を受理されようがされまいが、グレーなままであることに変わりありません。しかし、それを理由付けとせねば成り立たない“大人の事情”が裏側にあったことぐらい、想像に難くありません。

つまり、現在日本サッカーに出資しているクライアントの大部分は、「日本サッカーをより良くするために」なんてことはこれっぽっちも考えておらず、風向きが悪くなるやいなや「おいおい、とばっちりはゴメンだよ」とばかりにいちゃもんをつけてくる方々だと理解できるわけです。

どことは言いません。どことは言いませんが、ユニフォーム、そろそろミズノかアシックスにしたらいいんじゃないですかね。日本代表が世界で戦う際の戦闘着なわけですから、国産メーカーであるのは当然のことだと思いますよ。

そして、今後はなるべくサントリーやアサヒのビールを飲むことにします。コンビニエンスストアも、ローソンやセブンイレブンに行くようにしようっと。


■アギーレ解任という罪を背負って
さて、問題は“アギーレ後”です。

解任は決定事項なので、2018年ロシア大会までの3年間、指揮をまかせられる人物を捜さねば。前述したとおり、おそらくアギーレ氏以上の手腕を持つ指揮官を連れてくるのは困難だと思います。一部報道で「ザッケローニ復帰論」みたいなものがありましたが、ブラジルで惨敗した人間をまた使うなんて、神経がどうかしているとしか思えない。

決して長くない残りの期間、そしてザッケローニ時代の遺産ではもう勝てないことが立証された現状を鑑みると、

・Jリーグでの指揮経験があり、日本人選手の情報に精通している

ことが選考基準になるかと思います。加えて、他国の代表チーム指揮経験があればベストですが、「じゃあ日本人選手を知るために、これから視察しましょう」という方では困るわけです。もうそんな時間は残されていないのですから。

一方で、現職の指揮官を引き抜くことはできません。かつて川淵キャプテン(当時)が「オシムって言っちゃったね」というルール違反同然の引き抜きを行い、ジェフユナイテッド市原千葉に多大な迷惑をかけたことがありましたが、あんなことは言語道断。そう、長谷川健太氏(現ガンバ大阪 監督)やトニーニョ・セレーゾ氏(現鹿島アントラーズ 監督)、ネルシーニョ(現ヴィッセル神戸 監督)などの名が浮かびますが、Jのクラブはまもなく始まる新シーズンに向けて強化の真っ最中。そのなかで指揮官を引き抜くなんて、どのクラブも許しません。つまり、現在フリーであることも条件になるのです。

ストイコビッチ、オズワルド・オリヴェイラ……あと、ついこないだまでJ2ジュビロ磐田の指揮を執っていたシャムスカも候補として面白いかと思います。特にシャムスカは、実力で言えば強豪クラブに劣る大分トリニータというチームを率いていた際、選手の特性を把握した適材適所なチームワークを生み、ナビスコカップ優勝を成し遂げるなど、シャムスカ・マジック旋風を巻き起こした実績の持ち主。ここまで来たら「代表チームを指揮した経験がない」などと言うのではなく、面白いサッカーをやってくれそうな期待感に賭けてみる方がはるかに実りがあるように思えます。

実際にどの人物が指揮を執ることになるのかは分かりませんが、日本サッカー協会の上層部の方々は今一度、自分たちの足下を見つめ直し、アギーレ氏を解任せねばならなくなった理由と罪を背負って、より良い後任探しに奔走していただきたいです。

2015年1月26日月曜日

下克上のチャンス!今こそ国内中心の代表チームを

■実にお粗末なベスト8敗退
ベスト8での敗退となったオーストラリアでのアジアカップ2015。レベルこそワールドカップにはおよばないものの、日本が挑める数少ない真剣勝負の大会であり、その独特の形式や雰囲気から、歴代チームはいずれも苦戦を強いられてきました。ここ数回の大会で好成績をおさめてきたことから容易と見られがちなアジアカップですが、振り返ってみても薄氷を踏むような栄冠ばかり。アジアカップを制するのは実に困難なことであり、今大会で勝ち残っている他国に対する敬意を忘れてはなりません。

とはいえ、やはり今回の敗退は実によろしくありませんでした。ひとことで言えば自爆。あきらかにプレー精度に影響した中二日という強行日程に疑問を抱きはしますが、ボールポゼッション68.1%にシュート本数35本(うち枠内8本/UEAは計3本)というゲームスタッツを見るだけでも、「圧倒的に試合を支配しながら崩しきれない」「シュートが枠に飛んでいない」ということが浮き彫りになっています。小さくない要因があったとはいえ、これはお粗末。「勝って当たり前」という言葉は対戦相手への敬意を欠いていると思いつつも、こういう試合でも勝ちきれる力がなければ、チャンピオンにはなれません。

アギーレ監督の指揮能力に疑問の声があがっているようです。采配そのものに疑問はありませんが、あきらかにコンディションを落としている香川真司選手(独ドルトムント)をスタメンで起用したことについては、言及されても仕方ありません。試合の流れから消え、ここぞのアタック時にも効果的に絡めず、ついにはフィニッシュも精度を欠くというていたらく。日本屈指のプレーヤーであることは認めますが、本来の力を発揮できない状況にあるのなら、選考外としてもいいのです。アギーレ監督が彼の復活を熱望していたのか、それとも日本サッカー協会やその他から圧力があったのか……。そう勘ぐられる前に(すでに勘ぐられていますが)、アギーレ監督は香川選手の起用の是非について、ご自身の意見を述べられるべきかと思います。

さて、いよいよ目を向けるべきは“ロシア大会まで”です。結果最優先でザッケローニ時代に回帰した日本代表チームですが、就任当初からのアプローチを見るに、アジアカップに挑んだメンバーはアギーレ監督にとって「納得はできないが、結果のためなら致し方なし」というところでしょう。最終的に切望していた結果(アジアカップ優勝)は手にできませんでしたが、ここでようやく本来のチーム強化に立ち戻ることができます。

アジアカップでの収穫はありました。それは、「ザッケローニ時代のチームを主軸にはできない」ということと、「新戦力の発見」です。


■Jリーガーにモチベーションを
結果から見ても分かりますが、完成度の高さからザッケローニ時代に回帰した日本代表チームは、力でアジアを押し切ることができませんでした。ところどころ阿吽の呼吸とも言えるコンビネーションを見せることがあり、培ってきた良い部分は残すべきですが、チャンピオンにふさわしい戦いぶりができなかったというのは大きなマイナス。

極端な話、トップとまでは言わないにしても、アジアで3本の指にも入れなかった時点で、旧型に固執する必要がなくなったのです。とりわけスタメンの年齢を見ると、ロシア大会時には平均年齢が30代を超えます。次の世代に経験を伝えられるベテランとコミュニケーションを取りつつ、フレッシュなチームを再構築する絶好のタイミングでもあるのです。

そして新戦力。とりわけ柴崎岳選手(鹿島アントラーズ)は最大の発見だったと言えるでしょう。代表チームのコンダクター、遠藤保仁選手(ガンバ大阪)の後継者とも言われ、以前から注目度の高い若手ではありましたが、代表チームでは遠藤選手の存在感の大きさから、インパクトを与えるプレーをあまり見られずにいました(キリンチャレンジカップでゴールを決めましたが)。「まだフル代表という看板は重いのか」、そんな印象を抱くほどに。

ところがアジアカップのUAE戦に途中出場した彼は、以前とは違うたくましい顔つきに。同点ゴールは見事という他なく、遠藤選手が退いた代表チームのレジスタとして中盤に君臨。ボールが彼を経由すると、独特のリズムが加わりゴール前に接近する頻度があがるように。次世代の司令塔が誕生した瞬間だったと言えます。アギーレ監督も、柴崎選手の才能に大きな期待を寄せていたからこそ、この試合で遠藤選手に代えるという策に打って出たのでしょう。試合には敗れましたが、アギーレ監督の審美眼が本物だと照明されました。

また今大会では試みてはいませんが、森重真人選手(FC東京)をアンカー(中盤の底)で起用する手法も検討されています。現在このポジションには長谷部誠選手(独アイントラハト・フランクフルト)がいますが、スライドしても問題ない盤石のアンカーが生まれれば、ベテランの長谷部選手をバックアッパーとして分厚い層を作り上げることもできるわけです。

つまり、Jリーガーを核としたチームづくりが不可欠になります。

 
■名ではなく実でのチーム再編製を
コンディション面もさることながら、チームでの起用頻度や試合勘、メンタル面など、どこかに不調を抱えたままの選手がスタメンを飾ると、その悪い影響がチームに伝播し、バッドスパイラルを引き起こす要因にもなります。奇しくもブラジルW杯、そしてこのアジアカップでそのことが証明されました。それでも海外組を多用する理由は、「国内組に比べてあきらかに実力が上だから」というところでしたが、サッカーは11人+ベンチワークがバランスよく組み合わさって、はじめて連動性や一体感が生まれるもの。もはや海外組はアドバンテージたりえません。プラスアルファ(上積み)の戦力として起用するのがベストでしょう。

その象徴が、香川選手です。明らかに所属クラブでも本来の実力を発揮できていないのに、さらなる力の発揮が求められる代表チームに招集すること自体がナンセンス。そりゃ選手側とすれば、呼ばれれば「自分の力が求められているんだ」と招集に応じるに決まっています。要するに、「コンディションが良くないから呼ばない」という選択肢を持つべきだと言いたいのです。とりわけ移動負担が大きい海外組はなおさら。

柴崎選手や森重選手といった、フレッシュでモチベーションの高いJリーガーを中心にチームづくりをすれば、今までとは違う安定感ある日本代表チームができるはず。少なくともアギーレ監督の手腕が確かなことは立証されたわけですから。

そして、Jリーガーが中心となれば、他のJリーガーのモチベーションの向上にもつながり、自ずとJリーグそのもののレベルもアップします。ここでしっかりとした土台が作れれば、コンディションのいい海外組が加わった際、さらに大きな効果をもたらすことは明白。そうして“目指すべきスタイル”がはっきりした代表チームが活躍することで、子どもたちにも「いつかは代表チームに」という目標を抱いてもらえるようになるのです。

名前で選ばれた選手で構成されたツギハギチームがもう通用しないということが身に染みて分かったアジアカップ。もう、広告主の言いなりになって真の強化をおろそかにするのはヤメにしませんか、日本サッカー協会のお偉方。今回の結果を戒めとして真摯に受け止める気持ちがあるのなら。

2015年1月23日金曜日

日本サッカーの暗黒時代、ここに極まれり

【アジアカップ2015 決勝トーナメント1回戦 vsUAE @
 オーストラリア】

負けて、良かった。

中二日という強行日程が影響し、どの選手も動きが鈍かったです。勝ち続けてきただけにスタメンは変えられず、それが災いしたUAE戦でした。また、ヨーロッパや日本は冬まっただ中なのに、開催国は真夏のオーストラリア。代表チームはコンディション調整だけで四苦八苦していたことでしょう。

すべてがひどかったUAE戦。序盤から動きが重かった日本は、スキを突かれて早々に失点。そこで浮き足立ってしまったのか、ハタから見ればつながっているかのようなチグハグなパスを結び、UAEゴールに向けてシュートを放ちました。が、いずれもゴールを割れない。時間の経過とともに焦りが募るも、後半36分に途中出場の柴崎選手が同点ゴール。ここから息を吹き返し……たかったですが、やはりコンディションの悪さからパスワークが冴えず、チグハグなプレーから強引にシュートを打つのみ。幸いにもUAEの足もとまっていくつか決定機が訪れましたが、いずれも活かせず、満身創痍のまま延長を過ごし、最後にPKで敗れました。

もっとも気の毒なのは、アギーレ監督です。就任当初からテスト色の強いメンバー編成でチームを作り込んでいこうとするも、アジアカップ前になって遠藤選手や今野選手といったベテラン組を招集。それまでの流れから見れば「ん?どうした?」という違和感がありましたが、おそらく日本サッカー協会から「アジアカップで優勝するため、結果を優先してくれ」という強い要望があったのでしょう。分かりやすく言えば、ザッケローニ監督時代に戻ったわけです。

サッカー協会の要望は、至極真っ当。「まずはコンフェデ杯の出場権を獲得。チームの再編成はそのあとにやればいい」ということで、出場権の有無はチームの今後を大きく左右します。結果的に(出場権は)得られなかったわけですが、試みは正しかったと思います。

アジアカップのスタメンは、ご覧のとおりFW乾選手とDF酒井選手を除いてザッケローニ時代のレギュラーで固められていました。フォーメーションも、長谷部選手がアンカーとなってはいますが、基本陣形は変わらず。ある程度のアギーレ監督のエッセンスは入っていたものの、連携はブラジル大会のときそのまま。グループリーグを勝ち抜いたのも、ザッケローニの遺産に他なりませんでした。

そして、このUAE戦。

満身創痍の日本代表は、足がとまり、時間が経てば経つほどパス&ゴー、いわゆるチャレンジングなプレーが減っていき、パスやクロスの精度は著しく低下していきました。こうなると“無駄走り”が増え、肉体的にも精神的にも選手は疲弊してきます。悪循環に陥ったのは日本だけではありませんでしたが、王者としての風格は皆無でした。

満身創痍のときにこそ、“素”が出ます。最後尾から前線の選手にボールが入り、細かく繋いでサイドのほころびを突いて……という流れを期待して見るも、相手ゴールを背にボールを受けた選手はまずトラップし、そこから味方を探していました。アジアカップの決勝トーナメント一回戦という試合のレベルを考えれば、これは遅い。ワンプレー余計です。パスの出し手も、その二手三手先を呼んだ“崩しのメッセージ”が含まれたものではなく、受け手の気持ちを汲み取らずに「頼む、何とかしてくれ」とでも言いたげな無責任なパスばかり。

ザッケローニ時代から続くチーム編成が核になっているのであれば、ボールが入るのと同時に他の選手がスペースへ走り、ボールホルダーに選択肢を与えることができるはず。長らく同じメンバーでやってきたのだから、ダイレクトにはたいてつなげていく連動性があって然るべきです。疲れていたのは分かりますが、「これぞブラジル仕様」と作り上げたチームとは思えない連動性のなさに、ただただ唖然としてしまいました。

結局、モタモタとボールをつないでいるうちに敵は陣形を整えてしまい、強引なシュートを打っても人垣に跳ね返されてしまう。崩しきれないから闇雲にクロスを放り込むも、誰も合わせられない。そもそも日本人の身体能力は高くありませんから、どこぞの強豪クラブの屈強なストライカーのように強引にねじ込むなんて芸当はできません。

日本の真骨頂は、高精度なプレー。ザッケローニ時代のチームが盤石であれば、アジアカップなら3位決定戦ぐらいまでは十分勝ち進めたはず。それが、さして強固でもなかったディフェンス陣を崩せず、負傷者(長友選手)を抱えたまま延長を戦わなくてはならなくなり、“フットボール・ロシアンルーレット”PKで涙を飲むことに。

ブラジルに送り込んだチームは、アジアですら通用しない。

私が「負けて良かった」と言ったのは、ブラジルでも出し尽くせなかった膿がようやく吐き出せたから。ザッケローニ監督にまかせた四年間の残滓が、ここですべて出せた。アジアカップ ベスト8で敗退という無惨な結果のおかげで。

ことアジアカップの結果について、アギーレ監督に落ち度はありません。確かに延長戦を意識して交代枠をひとつ残しておくべきでは?とも思いましたが、ゴールに迫りながらも一点が遠かった90分間を見ると、そこで躊躇していたら同点ゴールすら生まれていなかったのかもしれないのですから。生まれるべくして生まれた結果だったのでしょう。

逆説的に言えば、誰が指揮官をやったとしても同じところ止まりだったとも思います。そういう意味で、采配の妙を見せてくれたアギーレ監督の手腕をしっかり確認できた大会だったのではないでしょうか。

日本サッカーの暗黒時代、ここに極まれり。

ブラジル大会で堕ちるところまで堕ちたと思っていましたが、もうワンステージ用意されていたとは、というのがアジアカップ敗退を受けての感想です。クライアントの顔色を伺っての日本代表ブランディング戦略に奔走したサッカー協会も、今回の結果は言い訳のきかないものとして受け止めざるを得なくなりましたね。八百長疑惑に揺れるアギーレ監督を更迭して“トカゲの尻尾切り”をしても、「じゃあ何のためにアギーレを選んだんだ」という非難の声が高まるだけ。

一方で、原 博実 専務理事が引責辞任したとしても、問題解決になるとも思えません。特にサッカー協会では、原さんが退いた後を任せられる人材がいないと聞きます。重要なのは、今回の敗退を受け、敗因の分析と結果報告、それを踏まえての今後の強化策を明確にすることです。

ブラジルW杯とアジアカップの両方については、大仁邦彌会長に引責辞任で十分だと思います。原さんにはあえて残留のうえ、日本サッカーの未来を見直した“イチからの船出”の陣頭指揮を執ってもらいたいと思うのです。大仁会長、別に「腹を切れ」って言っているわけじゃありません。決断のできないリーダーに居座られていても、組織の動きが鈍るだけですから。もはや地に堕ちた日本代表というブランドに執着するクライアントとは縁を切り、“あるべき日本サッカーのスタイル”を明確にすべきでしょう。

新監督就任の記者会見で、アギーレ監督とは“四年越しの恋”とまで語った仲ですから、可能であればアギーレ監督にまったく新しい日本代表を作っていただくサポートを原さんにしていただきたい。少なくともアギーレ監督は、限られた駒しかなかったにもかかわらず、采配の妙でここまで引き上げられたのですから。もちろん、アギーレ監督以上の後任がいればベストですが(八百長疑惑の件もありますし)、彼以上の力量でアジアの極東まで来てくれる物好きなんてまずいないでしょうから、協会が腹をくくってサポートする体制を表明すればいいだけのこと。心の底から日本サッカーを憂い、アギーレ監督に全幅の信頼を置いているならば、です。

中途半端に勝ち続けていたら、本質的な問題は先送りにされ、後になればなるほど手遅れという状態になっていたことでしょう。アジアカップでベスト8という結果は、ここ20年の日本サッカー史で見れば最低の結果。ええ、実に効き目バツグンな劇薬となりました。ここで変われなければ、日本サッカーは今後も成長することはないでしょう。選手やスタッフだけでなく、協会、そして日本サッカーを応援するすべての人々が、です。

負けて、良かった。

2015年1月22日木曜日

「そろそろやめませんか」過大評価の日本代表に違和感

オーストラリアで開催中のアジアカップ2015にて、日本代表が3戦全勝の1位でグループリーグを突破しました。それも、3試合連続の完封勝利というプラスアルファ付きで。下馬評でも優勝候補の筆頭でしたから、他のライバル国は「さすが日本」と兜の緒を締め直しているところでしょう。

日本のスポーツニュースを見ても、「日本強し!」の一色。ですが、僕はそんなに騒ぐほどのこととは思っていません。確かにやや余裕を残した感のあるグループリーグ突破ではありますが、そもそも私たちが目指しているのは2018年W杯ロシア大会で、なおかつ優勝国に与えられるコンフェデレーションズカップ出場権が狙い。このぐらいのこと、やってくれなくては困ります。

ハタから見ればかなり手厳しい評価、ともすればネガティブキャンペーンみたいに見られるかもしれませんが、ここまで言う理由は、現在のチームの状態を見てのことです。GL3試合でのスターティングメンバーはすべて一緒。さらに言えば、2014年W杯ブラジル大会時のスタメンと見比べても、違っているのはFW乾選手とDF酒井選手ぐらい。監督が新たになり、帯同メンバーも入れ替えられていますが、主力メンバーはザッケローニ時代からほぼ同じ。チームとしての連携が高いのは当然のことだからです。

2006年W杯ドイツ大会で同じように惨敗した日本は、その後イビチャ・オシム氏を指揮官としました。するとオシムは、一部こそ残せど日本代表メンバーを大きくチェンジ。自身の教え子を中心に、「日本代表を“日本化”させる」というフレーズのもと、まったく新しいメンバーでこのアジアカップに挑みました。結果は4位でしたが、あそこまでメンバーを替え、イチからチームを作り直そうとしていたことを考えると、オシム氏のハートの強さにただただ感心させられるばかりでした。

前任者のチームを土台とするアギーレ監督を批判するわけではありません。そういうチームづくりも選択肢のひとつですし、どういう方針を打ち立てるかは指揮官の権限。課せられたミッションは「4年後のロシア大会で好成績をおさめる」ということですから、その模様を見させてもらうほかないわけです。

ヨーロッパのクラブで活躍するメンバーで固められた固定スタメン。3戦連続の完封勝利はお見事ですが、グループリーグ突破はノルマであり、難易度がアップする決勝トーナメントに向けたウォーミングアップと新しい可能性探しも当然してもらわねば困ります。対戦した三ヶ国に対する敬意は持ちつつも、目指している頂はまだまだ先にあることを忘れてはなりません。正直、グループリーグ突破ぐらいでメディアがいちいち騒いでいることが問題。

良い結果ばかり取り上げるのではなく、さらなる飛躍に向けた厳しい目を持つのがメディアの仕事。例えば、香川真司選手のスランプ。どうしてスタメンで起用されているのか理解できないほど周囲と噛み合っていません。チームメートのほとんどが彼を擁護していますが、先のヨルダン戦を観ても、完全に試合から消えていました。最後のゴールがなければ、彼がどんなプレーをしたのかさえ思い出せないほど。走り込めば他のポジションの選手とかぶり(なんで本田がそこにいるんだ?ってときもしばしばありましたが)、球ばなれの悪さからアタッキングサードでの連携プレーを滞らせ、そこでテンポがずれるから敵に詰め寄られる。彼のボールロストの多さと言ったらありませんでした。対戦相手が韓国やオーストラリアだったら、致命傷となるミスばかり。幸いにもグループリーグ最終戦でゴールを挙げられたので、これでひとつ吹っ切れれば、彼のなかの悪いリズムが変わるかもしれませんが、現時点ではスタメン以下、いやピッチにいることが不思議な存在です。

ディフェンスの連携もイマイチ。無失点ではありますが、中盤の底でのボールロストに連携がチグハグなところなど、相変わらずのチョンボがチラホラ。いつもの“相手にペースを合わせる悪癖”は健在で、アジアカップだから大怪我(失点)にはつながっていないものの、仮に中盤の底でのパスミスで敵にボールを奪われた際、それがネイマールやクリスティアーノ・ロナウドだったら、即失点でしょう。ボランチふたりとディフェンスの四枚は、ブラジル大会に選ばれた主力級なわけですから、「指揮官が変わったから」は言い訳になりません。トーナメント方式の大会において、強固な守備は必須項目です。ここに不安がある時点で、その実力に疑問を抱かざるを得ないのは当然のこと。

アギーレ監督の采配力にも賞賛の声があがっているようですが、僕はまったく不満です。確かに、いつも采配が後手にまわる日本代表の歴代指揮官と比べると、アギーレ監督のそれは狙いがはっきりし、タイミングも逃さないなど、まさしく“名将”の肩書きにふさわしいもの。しかし、余力があるはずのグループリーグでレギュラーメンバーを3戦使い続けたというのはどうかと思います。突破こそ決めていないものの、2戦めで王手をかけたのだから、もっとサブ組にチャンスを与えるべきだったと思うのです。この先の決勝トーナメントからは日程的にも厳しく、勝ち進むほどに余裕がなくなるので主力に頼らざるを得ません。そのうちの誰かひとりでも怪我をしたら、経験値の低いバックアッパーを使わざるを得ないのです。いまだ“ピッチの空気”を吸っていないメンバーが多数いることを思うと、不安が残る3試合でもありました。

順調に勝ち進めば、次のUAE戦の向こうにホスト国オーストラリアが待ち構えていることでしょう。優勝候補同士の一騎打ち、戦いは熾烈を極めるに違いありません。しかし、ホームの声援を背に牙をむいてくるオーストラリアと、さらに彼らを打ち負かした先の決勝戦の相手をもなぎ倒さなければ、優勝カップとコンフェデレーションズカップ出場権は手にできないのです。文字どおりの総力戦となるなかで、バックアッパーの経験値の乏しさがそこでどう出るか。アギーレ監督と日本代表チームの真価が問われるのは、ここからでしょう。

まるで優勝間違いなし!みたいな雰囲気の報道が多いですが、思っている以上に道のりは険しいのです。楽観的な報道に乗せられると本質を見失うという、ブラジル大会時の反省が活かせていない日本のスポーツメディアにはただただガッカリさせられます。選手は浮かれてはいないでしょうが、メディアを含めた周囲の環境に対して、ファンやサポーターが厳しい声をあげていかない限り、日本サッカーが強くなるのは難しいでしょう。

少なくとも今の日本サッカー、はたから見たら“井の中の蛙”以外の何ものでもありません。ブラジルで、世界との差をまざまざと見せつけられたにもかかわらず、結局アジアに戻ったら「俺たち最強!」。そろそろやめませんか、こういうの。

2015年1月21日水曜日

海外にタレントを垂れ流すJリーグのクラブは危機感を

セレッソ大阪の若きエース、南野拓実選手が今季、オーストリアの強豪レッドブル・ザルツブルクに移籍しました。このチームには以前、宮本恒靖さんや三都主アレサンドロさんが所属したことで知られています。ヨーロッパのトップリーグには敵いませんが、ステップアップの場としては良いチームだと思います。あとは、いかに自分を見失わずに監督とチームメートから信頼を得てステップアップしていけるか。非常に楽しみですね。

10年ちょっと前に目を向けると、ヨーロッパのフットボールシーンで活躍する日本人選手は中田英寿さんぐらいでした。それが今や、20人を超える日本人選手がヨーロッパ各国のクラブに籍を置いています。Jリーグ誕生、そしてドーハの悲劇から数えること20数年……。日本のサッカーシーンは、大きく様変わりしたものです。

そうした有望なタレントが世界のトップリーグに戦いの場を求めることは非常に良いのですが、一方でJリーグはというと、かつての盛況はどこへやら、活気を失いつつあります。ガンバ大阪の三冠など話題を呼んだトピックスはいくつかありましたが、ストーブリーグを盛り上げたのは昨年のセレッソ大阪のフォルラン加入ぐらい。“サンフレッズ”などという有り難くない呼び名をつけられるほど、サンフレッチェ広島の選手を買い漁っている浦和レッズが強豪クラブとして君臨しているなど、リーグそのものの閉塞感が表れています。

プロのサッカークラブは、大きく分けて二通りあります。ひとつは有望な選手を買い集めて強豪化していくビッグクラブ。そしてもうひとつは、有能なタレントの卵を見つけて育成し、大きく育ったらビッグクラブに売却する育成型クラブです。F.C.バルセロナのように、育成期間もしっかりしていて外からも買い集められるビッグクラブは特殊として、おおよそそれぞれのクラブには“身の丈に合った役割”が存在します。

クラブではありませんが、Jリーグが今担っているのは育成型でしょう。実際、ドイツやオランダをはじめとするクラブのスカウトがJリーグに注目し、有能な選手をどんどん自国へと連れていっています。曰く、「規律正しくプレーできる日本人選手はドイツのクラブにマッチする。プレーレベルがアベレージ以上なら、プラスアルファをもたらす戦力となる」ということらしいです。香川真司選手や岡崎慎司選手、内田篤人選手、長谷部誠選手など、ドイツ・ブンデスリーガには確かにその言葉どおりの価値を生んでいる日本人選手がたくさんいます。

問題は、安値で売り飛ばしちゃっていることでしょう。

育成クラブにとっての有能なタレントとは、実質的にエースクラスの選手を指します。ビッグクラブが「これを引き抜きたい」というのですから、それ相応の移籍金をもらわねば“骨折り損のくたびれ儲け”になるわけです。

ギャレス・ベイル選手(ウェールズ代表/レアル・マドリー)がいい例です。当時、イングランド・プレミアリーグのトットナム・ホットスパーに所属していたベイル選手は、若手の有望株として同チームで頭角を現し、当初はサイドバックだったのがその攻撃力が買われてどんどん前線のポジションへ。スパーズ最終在籍時には、トップ下のエースとして君臨。劣勢の試合をひとりでひっくり返すということも珍しくないほどの能力を見せつけました。

そこに目をつけたのが、スペインの強豪レアル・マドリー。交渉の末、8600万ポンド(当時のレートで約137億5000万円)という当時史上最高額の移籍金でレアル入りしたのです。その巨額を手にしたスパーズは、新たに5人の選手を獲得、さらに新設予定のスタジアムにも余剰金がまわせたと言います。そう、手塩にかけて育てた選手を高値でビッグクラブに売り、そのお金でチームを新たに強化する——。これが、ヨーロッパの育成型クラブの姿です。

ところが有能な若手をヨーロッパに売り飛ばすJリーグ各クラブは、その選手にかける移籍金がとにかく低いと聞きます。香川選手をはじめ、柿谷曜一朗選手、清武弘嗣選手、乾貴士選手、そして南野選手と、典型的な育成型クラブであるセレッソ大阪も、「ヨーロッパのクラブに飛びたい」という彼らの希望に添って移籍金を低くしているのか、エースクラスが飛び出した直後に「セレッソが選手を買い漁っている」「ぼろ儲けしたらしい」なんて話、ほとんど聞いたことがありません。それに、移籍金ががっぽり入っているなら、それこそ海外のビッグネームに声をかけられようというもの。フォルランを獲得してはいますが、元手は若手売却のお金ではないと聞きます(一部は含まれているでしょうが)。若手は流出しているがリーグは閉塞感に包まれている……。お金がきちんとまわっていない証拠です。

端的に言えば、魑魅魍魎が跋扈する世界のサッカーシーンにおいて、日本のクラブはちょっと人が良すぎる……いや、プロフェッショナリズムに欠けているように思えます。

いくらしっかりした育成期間があり、次々と若手が底上げしてくる構造になっているといっても、エース級の選手が抜けたらチームの根幹が崩れてしまいます。「移籍したい」「この選手が欲しい」という思惑そのものは大切ですが、プロとしてお客さんからお金をもらっている以上、もう少しシビアな交渉をしてもらわねば困ります。地域名こそ冠してはいますが、ほとんどのクラブが実質的に企業母体となっているので、親会社の脛かじりフロントが多いのでしょう。横浜フリューゲルス消滅の反省を活かせていませんね。

何より一番の問題は、今サッカーを楽しんでいる子どもたちの目が海外のクラブに向いてしまうことです。「いつかはマンチェスター・ユナイテッドで」、その志たるやよし!ですが、国内リーグが活気づかないと、真の意味での底上げにはつながりません。代表チームがJリーグの選手を多用せねばならない理由もそこ。海外移籍はあくまでJリーグの先にあるもので、Jリーグと代表チームが手を携えてバランスよく強化を進めていくことが、結果的に日本サッカーの底上げにもつながるのです。

そのためには、売り時にはしっかりした移籍金を設定し、がっぽり儲けて大物外国人を穫りにいき、リーグそのものを活性化させること。かつてストイコビッチやドゥンガ、レオナルド、ジョルジーニョ、ブッフバルトといった世界屈指の名手が揃った時代は、華やかなだけでなくリーグそのものが活気づいていました。当時のジュビロ磐田や鹿島アントラーズなんて、そのまま海外リーグに挑ませても恥ずかしくないほど完成度高いチームだったのですから。

良質な外国人選手が集まれば、自ずとJリーグのレベルはあがります。そして試合の質にともない客足も増え、サポーターの見る目だってどんどん変わってくるに違いありません。同時に国内組だけでも十分代表チームを編成できるようになり、招集しやすいことからチーム完成度だってあがります。そうすれば、特定のタレントに頼らない日本人特有の“チームの質”で真っ向勝負を挑むことができるのです。

国内組中心の代表チームが勝ち続ければ、子どもたちにとってこれほど“身近なスーパースター”は他にいないでしょう。そうすれば、子どもたちも「代表チームは手の届く存在」、「いつかは僕も」と思ってくれるようになります。結果的に、日本サッカーの底上げに寄与するわけです。

海外のクラブに有能な若手を売りつけるのは、決して悪いわけではありません。遊びでやっているわけではないのですから。だからこそ、相応の移籍金を設定してしっかりお金をとりましょう。ここで儲けないと、「日本は買い叩きやすい」というレッテルを貼られてしまいます。それは、海外旅行に行った際に相場以上の値段でお土産物を売りつけられる日本人観光客となんら変わらないのです。

このスパイラルが生まれれば、そのうち海外のビッグクラブからオファーを受けた有能な日本人選手が「でも今の代表チームは国内組で編成されているから、今ヨーロッパのクラブに行ったら代表に呼ばれなくなるかも……」と悩んでくれるようになるんじゃないか、と思っています。そこで踏み止まる選手が増えてくれば、これも結果的にJリーグの活性化につながるわけです。「あの○○選手がクラブに残留した。ということは、Jリーグは海外クラブ以上に魅力的なんだ」と子どもたちにも伝えることにつながるからです。

道のりは長いですが、まずは第一歩から。各クラブの首脳陣の皆様、強気のネゴシエーションをお願いします。

2015年1月20日火曜日

J2セレッソ大阪に残留する“サムライ”フォルランに注目

終わってみれば、J2から昇格したばかりのガンバ大阪の三冠(リーグ、ナビスコカップ、天皇杯)で幕を閉じたJリーグ。“J2から昇格したばかりの”といっても、元々強豪チームとしての素地もありましたし、J2降格だって新体制がチグハグすぎて(呂比須&セホーンの二頭体制)現場が混乱し、立て直しきれずにシーズンが終わってしまったってだけのこと。リーグ終盤の天王山と言われた浦和レッズとの試合を見れば、「内容が悪くても負けない」試合運びで浦和をいなすなど、その戦いぶりは王者にふさわしいものでした。

そんな昨年のJリーグ、開幕前にもっとも話題を呼んだのは、同じ大阪に居を構えるセレッソ大阪でした。柿谷曜一朗や山口蛍、扇原貴宏といったフレッシュなタレントを擁し、2013シーズンをリーグ4位という好成績で終了。そしてもっとも話題を呼んだのが、ディエゴ・フォルランの加入でした。現役ウルグアイ代表にして、2010年W杯南アフリカ大会の得点王&最優秀選手。ヨーロッパ各国の強豪クラブを渡り歩いた名実ともにワールドクラスのストライカーの加入は、ビッグネームがリーグ入りしなくなって久しいJリーグの中心的話題になりました。

が、結果はなんとJ2降格。まさに天国と地獄とも言える凋落ぶり。まぁ、セレッソの歴史を知る人は、「好成績で終えた翌シーズンはJ2に堕ちる」というジンクスがまた証明されただけ、と思われるでしょうが……。

柿谷のスイス移籍、チーム内の不協和音、山口の怪我離脱、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)を含んだシーズン序盤の過密スケジュール、そのレベルに対応できるだけのチーム作り……。チームが落ちぶれた要因はさまざま挙げられていますが、J2降格という結果を見れば、これらすべてを含めて、チームが未熟だったということでしょう。

なかでも最大の要因は、フォルランをしっかり活用できなかったことです。

確かにこのビッグネームは、全盛期を過ぎた感が否めません。また、周囲のサポートがあってこそ活きるのが彼のプレースタイルなのですが、チームとして“フォルランを活かす”という方向に全員の顔が向いていないような混乱っぷりでした。孤立するフォルランを見ていて、Jリーグ創世記に名古屋に加入したゲーリー・リネカー(イングランド/1986年W杯メキシコ大会得点王)を思い出した古いファン、少なくなかったのではないでしょうか。

ハマれば一撃必殺。しかし、そのプレーのテンポとスピードを理解し、なおかつすべての選手がフォルランに合わせていく必要が不可欠でした。しかし相棒の柿谷は中盤にヨーロッパへ旅立ち、中盤の底を引き締める山口は怪我で離脱。それでも、チームの根幹が崩れでもしない限り、これほどのタレントを擁していながら降格するなんてことはまずあり得ません。監督や他の選手は何をしていたんだ?という印象です。

結果論ですが、それぐらいチームとして崩壊していたということでしょう。皮肉にも、同じ都市を拠点とするガンバ大阪が最たる例となりました。降格したシーズンの序盤、謎の二頭体制が引き起こした混乱は最後まで修正できず、そのまま泥沼化していきました。どれほど優れたチームでも、いきなり方針転換などしてしまったら現場は混乱し、本来の持ち味の1パーセントも出せなくなってしまう。“勝っているチームは変えるな”とは、ブラジルの諺です。

フォルランを獲得して、どう活用したかったのか。結局、フロントがネームバリューだけで獲得したことが浮き彫りになった形です。フォルラン中心のチームづくりをする気だったのか、それともある程度余剰戦力として見つつも、彼しか持ち得ない“勝者のエスプリ”をチームに与えたかったのか。また、その使い方に合った環境づくりまで考えていたのか。

フォルランとて、余暇でJリーグに来たわけではないでしょう。ここ数年、アメリカのMLS(メジャー・リーグ・サッカー)が大きなビジネスマーケット化してきており、彼のような全盛期を過ぎたビッグネームが多く渡米しています。それこそフォルランともなれば、セレッソ以上の好条件を用意できるアメリカのクラブチームからのオファーが期待できたはず。またあれほどのネームバリューを持つ選手が、現役の晩年を迎えるにあたってその知名度を汚すようなマネをするわけがありません。ビジネスである以上金額は納得がいくものを求めるでしょうが、今回のセレッソ入りは他チームの好オファー以上に魅力的な何かを感じ取ったからだと僕は思っています。

しかし結果的に、セレッソ大阪はフォルランという選手をリスペクトしていなかった。それは、安直に獲得したフロントのみならず、監督やコーチ、選手すべてです。言語の壁はあれど、向上心のある選手なら通訳の有無に関係なく、時間を惜しんでも彼に話しかけ、日常では得られない知識を得ようと思うはず。少なくともフォルランは現状にまったく満足していない様子ですし、それはセレッソというクラブと彼が密な関係性を築き上げられていない何よりの証拠。野球選手よりも現役生命が短いプロサッカー選手でありながら、貴重な糧を無駄にするこのていたらく。そりゃ降格するってもんです。

フォルランは、J2に降格したセレッソへの残留を決めたと言います。諸事情によるものでもあるでしょうが、その心中、察するに余りあるところです。降格の責任を感じていることもあるでしょう、そして何より、自分が選んだ道にしっかりけじめをつけたいという気持ちも持っていることでしょう。

J2降格という憂き目に遭い、チームの浮沈をかけたシーズンに挑むセレッソ大阪。一年でJ1に戻れなければ、東京ヴェルディのようにズルズルとJ2の常連化することは間違いありません。そんななか、ディエゴ・フォルランほどの選手がチームに残留するというのです。彼ほどの選手はJ2のみならず、J1のチームでさえ欲しくても手に入れられない唯一無二のワイルドカード。セレッソがこの世界的キーマンをどう取り扱うかが、自ずと今シーズンの結果に結びつくものと思います。

2015年1月19日月曜日

日本人として誇らしい本田圭佑のアジア審判批判

ただいまオーストラリアで開催中のサッカー・アジアカップ。大きな波紋を呼んだ本田圭佑選手の「アジアカップの審判」に関する発言と、それに対してAFC(アジアサッカー連盟)から罰金5000ドルが科せられたニュースは、大きなトピックスとして取り上げられました。

まず大前提として、「審判批判」と「元締めからの罰則or罰金」は、ヨーロッパや南米のサッカーシーンでは日常茶飯事。ジョゼ・モウリーニョ(チェルシー監督)のように、己が発言力の大きさを理解しながら審判や敵将を批判し、パフォーマンスとするキャラクターは世界的に珍しくありません。もちろん行き過ぎればFIFA(国際サッカー連盟)やUEFA(欧州サッカー連盟)から罰金を科せられることがありますが、そういうことも含めて多額のギャラを手にしていると自身で理解してやっています。ちょっと日本には馴染みのないカルチャーなので、「本田、審判批判で罰金!」みたいな見出しのインパクトが強く受け止められたように思われますが、サッカーの世界じゃよくある話です。

ただ、今回の本田選手の発言が大きな波紋を呼んだことは事実です。

なんといっても彼が所属するACミランは、世界屈指のビッグクラブ(ちょっと最近はその威光が薄れている感が否めませんが)。そこで背番号10を背負っているレギュラープレーヤーが、大事なリーグ戦から抜けてアジアNo.1を決める大会に出向いている。もちろん、それでヨーロッパのメディアの目がアジアカップに向けられるわけではありませんが、インターネットが日常となっている今、“本田圭佑の審判批判”というだけで、ヨーロッパでもネタとして取り扱われます。

アジアカップの審判のレベルが低い……長らくサッカーを観てきた人にとっては「何を今さら」というところでしょう。今大会のみならず、ワールドカップのアジア予選でもその模様ははっきり分かります。実はJリーグでも、「審判のレベルが試合に追いついていない」と言われることがあるほどで、まともなプロリーグを持たないアジア諸国に高い審判レベルを求めるのは極めて難しいこと。しかしながら、アジアの強豪国にはヨーロッパのトップリーグやビッグクラブでプレーする選手がおり、当然そのレベルの差に愕然とさせられるのです。

先の2014年ワールドカップ・ブラジル大会の開幕戦を覚えていますでしょうか。開催国ブラジルとクロアチアの試合で、日本人審判の西村雄一さんが主審としてピッチに立ち、ブラジルへ与えられたPK(結果的にこれが決勝点となる)が物議をかもしました。そう、この一幕も、「アジアの審判のレベルは低い」というレッテルの一部となっているのです。

審判の育成は、選手の育成以上に難しいもの。かつてJリーグ創世記には、ヨーロッパや南米から高レベルの審判を招聘しており、彼らとの交流や指導から日本の審判レベルは着実にアップしました。大物外国人選手や優れた審判がいることで、自ずと試合のレベルはアップし、合わせて日本人選手のレベルも格段にあがっていったのです。その逆もまた然り、選手や審判のレベルが下がれば、ゲームは停滞し、お客さんの足は遠のいてしまいます。いくら育てたいと言われても、淀んだ流れのなかで選手や審判がレベルアップするのは至極困難なこと。また、審判が試合のレベルについていけないと、危険なプレーが続発してしまう恐れがあります。あらゆる面において、試合の質をコントロールするのが審判の役割なのです。

ヨーロッパのトップリーグに身を置く本田選手は、審判のレベルが試合を左右することをよく知っています。そもそも彼らはプロのサッカー選手で、試合の内容や結果によってその後の生活が大きく変わってしまうという世界に身を置いているのです。ACミランのレギュラープレーヤーが、大事なリーグ戦を後回しにして参加している……。この事実からも、彼のアジアカップにかける意気込みは痛いほど分かりますし、彼の目標は間違いなくアジアカップ優勝でしょう。これによって、“プレワールドカップ”コンフェデレーションズカップへの出場権が得られ、日本代表はより大きな成長のための機会を得られるのです。

そこで、「アジアだから、審判のレベルが低いのは仕方ない」と済ますことはできません。おそらく本田選手は、自身の発言力がどれほどのものか理解しつつ、「それでも言わねば」と意を決して発言したに違いありません。ひいてはブラジル大会の悔しさからはじまるロシア大会への意気込みなのでしょう。

先のブラジル大会で、日本の代表として挑んだチームは、一勝もすることなくブラジルを後にしました。監督や選手を批判するのはカンタンですが、それらすべてを含めて“日本の代表”として我々が送り込んだ人たちであり、もし外国人が「日本ってブラジルで一勝もできなかったんだよね」と言ったとすると、それは代表チームにではなく、私たち日本人ひとりひとりに向けられた言葉だと理解せねばなりません。

本田選手の発言は飽くなき勝利への執念から出たものであり、僕は彼の発言を誇らしく思います。間違いなく本田選手は、“日本を背負っている”ということをしっかりと自覚した人だと改めて感じ入った次第です。改めて、アジアカップを観戦する楽しみが増えました。