2015年1月21日水曜日

海外にタレントを垂れ流すJリーグのクラブは危機感を

セレッソ大阪の若きエース、南野拓実選手が今季、オーストリアの強豪レッドブル・ザルツブルクに移籍しました。このチームには以前、宮本恒靖さんや三都主アレサンドロさんが所属したことで知られています。ヨーロッパのトップリーグには敵いませんが、ステップアップの場としては良いチームだと思います。あとは、いかに自分を見失わずに監督とチームメートから信頼を得てステップアップしていけるか。非常に楽しみですね。

10年ちょっと前に目を向けると、ヨーロッパのフットボールシーンで活躍する日本人選手は中田英寿さんぐらいでした。それが今や、20人を超える日本人選手がヨーロッパ各国のクラブに籍を置いています。Jリーグ誕生、そしてドーハの悲劇から数えること20数年……。日本のサッカーシーンは、大きく様変わりしたものです。

そうした有望なタレントが世界のトップリーグに戦いの場を求めることは非常に良いのですが、一方でJリーグはというと、かつての盛況はどこへやら、活気を失いつつあります。ガンバ大阪の三冠など話題を呼んだトピックスはいくつかありましたが、ストーブリーグを盛り上げたのは昨年のセレッソ大阪のフォルラン加入ぐらい。“サンフレッズ”などという有り難くない呼び名をつけられるほど、サンフレッチェ広島の選手を買い漁っている浦和レッズが強豪クラブとして君臨しているなど、リーグそのものの閉塞感が表れています。

プロのサッカークラブは、大きく分けて二通りあります。ひとつは有望な選手を買い集めて強豪化していくビッグクラブ。そしてもうひとつは、有能なタレントの卵を見つけて育成し、大きく育ったらビッグクラブに売却する育成型クラブです。F.C.バルセロナのように、育成期間もしっかりしていて外からも買い集められるビッグクラブは特殊として、おおよそそれぞれのクラブには“身の丈に合った役割”が存在します。

クラブではありませんが、Jリーグが今担っているのは育成型でしょう。実際、ドイツやオランダをはじめとするクラブのスカウトがJリーグに注目し、有能な選手をどんどん自国へと連れていっています。曰く、「規律正しくプレーできる日本人選手はドイツのクラブにマッチする。プレーレベルがアベレージ以上なら、プラスアルファをもたらす戦力となる」ということらしいです。香川真司選手や岡崎慎司選手、内田篤人選手、長谷部誠選手など、ドイツ・ブンデスリーガには確かにその言葉どおりの価値を生んでいる日本人選手がたくさんいます。

問題は、安値で売り飛ばしちゃっていることでしょう。

育成クラブにとっての有能なタレントとは、実質的にエースクラスの選手を指します。ビッグクラブが「これを引き抜きたい」というのですから、それ相応の移籍金をもらわねば“骨折り損のくたびれ儲け”になるわけです。

ギャレス・ベイル選手(ウェールズ代表/レアル・マドリー)がいい例です。当時、イングランド・プレミアリーグのトットナム・ホットスパーに所属していたベイル選手は、若手の有望株として同チームで頭角を現し、当初はサイドバックだったのがその攻撃力が買われてどんどん前線のポジションへ。スパーズ最終在籍時には、トップ下のエースとして君臨。劣勢の試合をひとりでひっくり返すということも珍しくないほどの能力を見せつけました。

そこに目をつけたのが、スペインの強豪レアル・マドリー。交渉の末、8600万ポンド(当時のレートで約137億5000万円)という当時史上最高額の移籍金でレアル入りしたのです。その巨額を手にしたスパーズは、新たに5人の選手を獲得、さらに新設予定のスタジアムにも余剰金がまわせたと言います。そう、手塩にかけて育てた選手を高値でビッグクラブに売り、そのお金でチームを新たに強化する——。これが、ヨーロッパの育成型クラブの姿です。

ところが有能な若手をヨーロッパに売り飛ばすJリーグ各クラブは、その選手にかける移籍金がとにかく低いと聞きます。香川選手をはじめ、柿谷曜一朗選手、清武弘嗣選手、乾貴士選手、そして南野選手と、典型的な育成型クラブであるセレッソ大阪も、「ヨーロッパのクラブに飛びたい」という彼らの希望に添って移籍金を低くしているのか、エースクラスが飛び出した直後に「セレッソが選手を買い漁っている」「ぼろ儲けしたらしい」なんて話、ほとんど聞いたことがありません。それに、移籍金ががっぽり入っているなら、それこそ海外のビッグネームに声をかけられようというもの。フォルランを獲得してはいますが、元手は若手売却のお金ではないと聞きます(一部は含まれているでしょうが)。若手は流出しているがリーグは閉塞感に包まれている……。お金がきちんとまわっていない証拠です。

端的に言えば、魑魅魍魎が跋扈する世界のサッカーシーンにおいて、日本のクラブはちょっと人が良すぎる……いや、プロフェッショナリズムに欠けているように思えます。

いくらしっかりした育成期間があり、次々と若手が底上げしてくる構造になっているといっても、エース級の選手が抜けたらチームの根幹が崩れてしまいます。「移籍したい」「この選手が欲しい」という思惑そのものは大切ですが、プロとしてお客さんからお金をもらっている以上、もう少しシビアな交渉をしてもらわねば困ります。地域名こそ冠してはいますが、ほとんどのクラブが実質的に企業母体となっているので、親会社の脛かじりフロントが多いのでしょう。横浜フリューゲルス消滅の反省を活かせていませんね。

何より一番の問題は、今サッカーを楽しんでいる子どもたちの目が海外のクラブに向いてしまうことです。「いつかはマンチェスター・ユナイテッドで」、その志たるやよし!ですが、国内リーグが活気づかないと、真の意味での底上げにはつながりません。代表チームがJリーグの選手を多用せねばならない理由もそこ。海外移籍はあくまでJリーグの先にあるもので、Jリーグと代表チームが手を携えてバランスよく強化を進めていくことが、結果的に日本サッカーの底上げにもつながるのです。

そのためには、売り時にはしっかりした移籍金を設定し、がっぽり儲けて大物外国人を穫りにいき、リーグそのものを活性化させること。かつてストイコビッチやドゥンガ、レオナルド、ジョルジーニョ、ブッフバルトといった世界屈指の名手が揃った時代は、華やかなだけでなくリーグそのものが活気づいていました。当時のジュビロ磐田や鹿島アントラーズなんて、そのまま海外リーグに挑ませても恥ずかしくないほど完成度高いチームだったのですから。

良質な外国人選手が集まれば、自ずとJリーグのレベルはあがります。そして試合の質にともない客足も増え、サポーターの見る目だってどんどん変わってくるに違いありません。同時に国内組だけでも十分代表チームを編成できるようになり、招集しやすいことからチーム完成度だってあがります。そうすれば、特定のタレントに頼らない日本人特有の“チームの質”で真っ向勝負を挑むことができるのです。

国内組中心の代表チームが勝ち続ければ、子どもたちにとってこれほど“身近なスーパースター”は他にいないでしょう。そうすれば、子どもたちも「代表チームは手の届く存在」、「いつかは僕も」と思ってくれるようになります。結果的に、日本サッカーの底上げに寄与するわけです。

海外のクラブに有能な若手を売りつけるのは、決して悪いわけではありません。遊びでやっているわけではないのですから。だからこそ、相応の移籍金を設定してしっかりお金をとりましょう。ここで儲けないと、「日本は買い叩きやすい」というレッテルを貼られてしまいます。それは、海外旅行に行った際に相場以上の値段でお土産物を売りつけられる日本人観光客となんら変わらないのです。

このスパイラルが生まれれば、そのうち海外のビッグクラブからオファーを受けた有能な日本人選手が「でも今の代表チームは国内組で編成されているから、今ヨーロッパのクラブに行ったら代表に呼ばれなくなるかも……」と悩んでくれるようになるんじゃないか、と思っています。そこで踏み止まる選手が増えてくれば、これも結果的にJリーグの活性化につながるわけです。「あの○○選手がクラブに残留した。ということは、Jリーグは海外クラブ以上に魅力的なんだ」と子どもたちにも伝えることにつながるからです。

道のりは長いですが、まずは第一歩から。各クラブの首脳陣の皆様、強気のネゴシエーションをお願いします。

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