2015年1月23日金曜日

日本サッカーの暗黒時代、ここに極まれり

【アジアカップ2015 決勝トーナメント1回戦 vsUAE @
 オーストラリア】

負けて、良かった。

中二日という強行日程が影響し、どの選手も動きが鈍かったです。勝ち続けてきただけにスタメンは変えられず、それが災いしたUAE戦でした。また、ヨーロッパや日本は冬まっただ中なのに、開催国は真夏のオーストラリア。代表チームはコンディション調整だけで四苦八苦していたことでしょう。

すべてがひどかったUAE戦。序盤から動きが重かった日本は、スキを突かれて早々に失点。そこで浮き足立ってしまったのか、ハタから見ればつながっているかのようなチグハグなパスを結び、UAEゴールに向けてシュートを放ちました。が、いずれもゴールを割れない。時間の経過とともに焦りが募るも、後半36分に途中出場の柴崎選手が同点ゴール。ここから息を吹き返し……たかったですが、やはりコンディションの悪さからパスワークが冴えず、チグハグなプレーから強引にシュートを打つのみ。幸いにもUAEの足もとまっていくつか決定機が訪れましたが、いずれも活かせず、満身創痍のまま延長を過ごし、最後にPKで敗れました。

もっとも気の毒なのは、アギーレ監督です。就任当初からテスト色の強いメンバー編成でチームを作り込んでいこうとするも、アジアカップ前になって遠藤選手や今野選手といったベテラン組を招集。それまでの流れから見れば「ん?どうした?」という違和感がありましたが、おそらく日本サッカー協会から「アジアカップで優勝するため、結果を優先してくれ」という強い要望があったのでしょう。分かりやすく言えば、ザッケローニ監督時代に戻ったわけです。

サッカー協会の要望は、至極真っ当。「まずはコンフェデ杯の出場権を獲得。チームの再編成はそのあとにやればいい」ということで、出場権の有無はチームの今後を大きく左右します。結果的に(出場権は)得られなかったわけですが、試みは正しかったと思います。

アジアカップのスタメンは、ご覧のとおりFW乾選手とDF酒井選手を除いてザッケローニ時代のレギュラーで固められていました。フォーメーションも、長谷部選手がアンカーとなってはいますが、基本陣形は変わらず。ある程度のアギーレ監督のエッセンスは入っていたものの、連携はブラジル大会のときそのまま。グループリーグを勝ち抜いたのも、ザッケローニの遺産に他なりませんでした。

そして、このUAE戦。

満身創痍の日本代表は、足がとまり、時間が経てば経つほどパス&ゴー、いわゆるチャレンジングなプレーが減っていき、パスやクロスの精度は著しく低下していきました。こうなると“無駄走り”が増え、肉体的にも精神的にも選手は疲弊してきます。悪循環に陥ったのは日本だけではありませんでしたが、王者としての風格は皆無でした。

満身創痍のときにこそ、“素”が出ます。最後尾から前線の選手にボールが入り、細かく繋いでサイドのほころびを突いて……という流れを期待して見るも、相手ゴールを背にボールを受けた選手はまずトラップし、そこから味方を探していました。アジアカップの決勝トーナメント一回戦という試合のレベルを考えれば、これは遅い。ワンプレー余計です。パスの出し手も、その二手三手先を呼んだ“崩しのメッセージ”が含まれたものではなく、受け手の気持ちを汲み取らずに「頼む、何とかしてくれ」とでも言いたげな無責任なパスばかり。

ザッケローニ時代から続くチーム編成が核になっているのであれば、ボールが入るのと同時に他の選手がスペースへ走り、ボールホルダーに選択肢を与えることができるはず。長らく同じメンバーでやってきたのだから、ダイレクトにはたいてつなげていく連動性があって然るべきです。疲れていたのは分かりますが、「これぞブラジル仕様」と作り上げたチームとは思えない連動性のなさに、ただただ唖然としてしまいました。

結局、モタモタとボールをつないでいるうちに敵は陣形を整えてしまい、強引なシュートを打っても人垣に跳ね返されてしまう。崩しきれないから闇雲にクロスを放り込むも、誰も合わせられない。そもそも日本人の身体能力は高くありませんから、どこぞの強豪クラブの屈強なストライカーのように強引にねじ込むなんて芸当はできません。

日本の真骨頂は、高精度なプレー。ザッケローニ時代のチームが盤石であれば、アジアカップなら3位決定戦ぐらいまでは十分勝ち進めたはず。それが、さして強固でもなかったディフェンス陣を崩せず、負傷者(長友選手)を抱えたまま延長を戦わなくてはならなくなり、“フットボール・ロシアンルーレット”PKで涙を飲むことに。

ブラジルに送り込んだチームは、アジアですら通用しない。

私が「負けて良かった」と言ったのは、ブラジルでも出し尽くせなかった膿がようやく吐き出せたから。ザッケローニ監督にまかせた四年間の残滓が、ここですべて出せた。アジアカップ ベスト8で敗退という無惨な結果のおかげで。

ことアジアカップの結果について、アギーレ監督に落ち度はありません。確かに延長戦を意識して交代枠をひとつ残しておくべきでは?とも思いましたが、ゴールに迫りながらも一点が遠かった90分間を見ると、そこで躊躇していたら同点ゴールすら生まれていなかったのかもしれないのですから。生まれるべくして生まれた結果だったのでしょう。

逆説的に言えば、誰が指揮官をやったとしても同じところ止まりだったとも思います。そういう意味で、采配の妙を見せてくれたアギーレ監督の手腕をしっかり確認できた大会だったのではないでしょうか。

日本サッカーの暗黒時代、ここに極まれり。

ブラジル大会で堕ちるところまで堕ちたと思っていましたが、もうワンステージ用意されていたとは、というのがアジアカップ敗退を受けての感想です。クライアントの顔色を伺っての日本代表ブランディング戦略に奔走したサッカー協会も、今回の結果は言い訳のきかないものとして受け止めざるを得なくなりましたね。八百長疑惑に揺れるアギーレ監督を更迭して“トカゲの尻尾切り”をしても、「じゃあ何のためにアギーレを選んだんだ」という非難の声が高まるだけ。

一方で、原 博実 専務理事が引責辞任したとしても、問題解決になるとも思えません。特にサッカー協会では、原さんが退いた後を任せられる人材がいないと聞きます。重要なのは、今回の敗退を受け、敗因の分析と結果報告、それを踏まえての今後の強化策を明確にすることです。

ブラジルW杯とアジアカップの両方については、大仁邦彌会長に引責辞任で十分だと思います。原さんにはあえて残留のうえ、日本サッカーの未来を見直した“イチからの船出”の陣頭指揮を執ってもらいたいと思うのです。大仁会長、別に「腹を切れ」って言っているわけじゃありません。決断のできないリーダーに居座られていても、組織の動きが鈍るだけですから。もはや地に堕ちた日本代表というブランドに執着するクライアントとは縁を切り、“あるべき日本サッカーのスタイル”を明確にすべきでしょう。

新監督就任の記者会見で、アギーレ監督とは“四年越しの恋”とまで語った仲ですから、可能であればアギーレ監督にまったく新しい日本代表を作っていただくサポートを原さんにしていただきたい。少なくともアギーレ監督は、限られた駒しかなかったにもかかわらず、采配の妙でここまで引き上げられたのですから。もちろん、アギーレ監督以上の後任がいればベストですが(八百長疑惑の件もありますし)、彼以上の力量でアジアの極東まで来てくれる物好きなんてまずいないでしょうから、協会が腹をくくってサポートする体制を表明すればいいだけのこと。心の底から日本サッカーを憂い、アギーレ監督に全幅の信頼を置いているならば、です。

中途半端に勝ち続けていたら、本質的な問題は先送りにされ、後になればなるほど手遅れという状態になっていたことでしょう。アジアカップでベスト8という結果は、ここ20年の日本サッカー史で見れば最低の結果。ええ、実に効き目バツグンな劇薬となりました。ここで変われなければ、日本サッカーは今後も成長することはないでしょう。選手やスタッフだけでなく、協会、そして日本サッカーを応援するすべての人々が、です。

負けて、良かった。

0 件のコメント:

コメントを投稿