2015年1月12日月曜日

なぜか結びつかない高校サッカーと日本代表

■悲願の初優勝
石川県の星稜高校が全国の頂点に立った今年の全国高校サッカー選手権大会。天皇杯のスケジュールが前倒し開催となったこともあり、冬の風物詩として話題を独占した感がありました。

未来のJリーガー、そして未来の日本代表となる逸材が揃う今大会、数試合ほどTV観戦しましたが、年々選手のレベルがアップしていると実感します。海外トップリーグが身近になったこと(テレビで見られる、日本人選手が活躍する、など)もそうですが、やはり国内リーグの充実があってこそ裾野が広がるというもの。若い選手の活躍は頼もしい限りですね。

そんな高校サッカーを見ていて、ふと感じたことがありました。それは、今回念願の初優勝を飾った星稜高校について、です。本田圭祐選手の母校として注目を集めまていますが、改めて2年連続で決勝までコマを進めたという偉業をクローズアップすべきでしょう。

プロとは異なり、高校サッカーは一年を終えるたび、チームの根幹が変わってしまいます。そう、最高学年である三年生が卒業していくからです。当たり前の話ではありますが、言うなればそれまでチームのレギュラーだった層がごっそり抜けるということ。翌年には、新しく加わる新入部員とともにチームづくりを行なっていかねばなりません。チームとしての熟成度が差を分けるサッカーというスポーツの特性を考えると、なんとも悩ましい事情ではあります。

“チームの骨格そのものを見直しての刷新”という難題を考えると、2年連続で決勝進出をはたした星稜高校のすごさと言ったらありません。特定のタレントに頼らない一貫した強化方針がなければ、安定した力を発揮することはできないからです。監督の力量はもちろん、周囲のサポートも不可欠となります。試合に勝つには、第一に選手の質、そして彼らの力量を最大限に発揮できる環境づくりと、あらゆる要素を含んだ総合力があってこそ。

■星稜高校の勝因とは
“選手の質”という点では、東福岡の中島賢星選手など、プロとして通用するであろう高い能力の持ち主はたくさんいました。が、どこの出場校もそんなレベルのタレントを抱えているわけではありません。日本にクリスティアーノ・ロナウドやメッシがいないのと同様、チーム力で勝ち上がってきた高校がほとんどと言っていいでしょう。

足りない個の実力差を埋めて勝ち上がる戦い方を身につける必要がありますし、どれだけ優れた個を揃えたチームが相手でも、総合力をもって打ち負かすことができるのがサッカーというスポーツ。星稜高校だけに限ったことではありませんが、大会が進んでいくにつれ、勝ち上がってきた高校に顕著に見られた傾向でした。

そんな各校の試合を観ていて気づいたのは、以下の2点。

・次のプレーにつながるトラップ技術
・パス&ゴーの徹底

サッカーをやっていれば小学生のときに教わる基礎中の基礎ですが、その基本を徹底するというのはなかなかに難しいもの。とりわけ星稜高校は、本田圭祐選手という華やかなOBがいると、「俺だって」とスタンドプレーに走る選手がいたとしても不思議ではありません。しかし、“チームとしての戦い方”を全員がしっかり理解しているように見えました。

トラップとは、その次のプレーをはじめるうえでの第一歩です。タッチラインを背にボールを受ける際、クロス(またはアーリークロス)をあげたいのであれば眼前の敵の足が届かない前方にボールを置く必要がありますし、前線が手詰まりで闇雲にクロスを上げても跳ね返されると判断したときは、組み立て直すために自陣寄りにボールを置く必要があります。「ファーストタッチを見れば、その選手の力量やインテリジェンスが伺い知れる」とは言いますが、勝ち上がってきた高校の選手は“攻めどころ”と“守りどころ”の使い分けができているように思えました。

テレビから伺い知ることはできませんでしたが、試合中はボールホルダーに対してチームメートがしっかりと声がけをしていたのでしょう。いわゆるコーチングと呼ばれるもので、「背後に敵が迫っているぞ」、「今フリーだぞ」と教えてやることで、ボールホルダーは適切な状況判断ができるのです。トラップ技術にともなうコーチング力も高かったものと思います。だから、シンプルなプレーを危なげなくこなしていたのです。

そして、パス&ゴー。特にアタッキングサードに入ってからが顕著でしたが、それこそ星稜高校の選手は味方にボールを渡したあと、足を止めることなく意図あるランをしっかりと行なっていました。これは反復練習の賜物だと思いますが、コミュニケーションを取りながら練習を繰り返すことで、味方の特性を理解し、信頼あるランが生み出されるというもの。当然攻撃に厚みが生まれ、なおかつ無駄走りもなくなります。ひとえに選手の力量を見極める監督の采配も大きな要因と言えるでしょう。

■強豪ぶっている井の中の蛙
全国の高校サッカーの頂点にふさわしいチームだった星稜高校。もちろん準優勝の前橋育英、そして他校もすばらしい試合を見せてくれました。こと星稜高校で言えば、先のブラジルW杯で言えば、優勝したドイツのような安定感あるチーム力を見せつけての優勝だったと言えます。およそ高校生とは思えない完成度が高いチームを見させてもらったわけですが、こうした裾野が日本代表にフィードバックされているかと言われると、決してそうではありません。

本来は、日本代表が日本全国のサッカー少年の模範となり、「日本のサッカーとは、こうだ」というものを見せねばなりません。パスワークで相手を翻弄するポゼッションサッカーを軸とするならば、未来の本田圭祐選手や香川真司選手、遠藤保仁選手となるテクニシャンが求められることになります。そう、ブラジル代表やスペイン代表のように。

確かに、ブラジルやスペインのサッカーは実に流麗ですし、こと中盤の選手に関して言えば、日本は常に有能な選手を輩出しています。「その特徴を最大限に活かすべき」という主張はごもっともですが、現実問題、その自慢の中盤でどこまで世界に通用したかと言えば、その実績はほぼゼロと言えるでしょう。先のブラジルW杯もそうですが、好成績をおさめた2010年南アフリカ大会でも「中盤を制圧して勝ちきった」わけではありません。どちらかと言えば、守りに守ってカウンター一本というものでした。GL第2戦の相手オランダには、完全に試合の主導権を握られてしまいましたし。ブラジル大会では、言わずもがな。

現在の日本代表は、ブラジル大会当時のまま特に変わっていません。酷な言い方をすれば、“ブラジルでまったく通用しなかったチームを使い回し、アジア相手に強豪ぶっている井の中の蛙”のままというわけです。その状態で、3年後のロシア大会で好成績をおさめられるのか……。「勝てる!」と答えられる人は、盲目的にサッカーを見ているだけか、代表選手または関係者の身内でしょう。

優れたMFを排出できるのは、ひとえに国民性によるもの。人材が豊富なことは良いことですが、自然発生的なことと育成は別問題。大事なのは、「世界相手に勝ち星をあげるための育成と強化」。その点で言えば、全体がレベルアップしつつ献身的にプレーできる選手が高校生クラスに多数存在するというのは、実にすばらしいことだと思うのです。

自慢の中盤を活かすのも、その周囲に“水を運ぶ選手”がいてこそ。日本人ほど献身的にチームに尽くす人種は、まずいません。また、足をとめずに走りきれる献身的な選手が代表チームに選ばれるようになれば、「俺だって代表を目指せるかも」と夢を抱ける少年が増えてくるはずです。ひいてはこれが、日本サッカーの厚みになると思います。星稜高校の選手が見せてくれたのは、「これぞ日本サッカーのスタイル」とも言える姿勢でした。

はたしてアギーレ監督がこの観点のもとにチーム構成を行なっているのか。いや、そもそも日本サッカー協会がこういったオーダーをアギーレ監督に出しているのか。そろそろ日本サッカーのスタイルの確立や強化方針に一貫性を持たせてほしいもんだ……。今年の高校サッカーを見終えて、そんな感想を抱きました。

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