2014年6月17日火曜日

ミッション:インポッシブルに挑む日本代表

■スモールフットボールこそ日本の強みだが
東洋経済オンラインに掲載されていたスポーツライター木崎伸也さんのコラム「日本代表の敗戦は、偶然ではなく必然だ」での分析が興味深かったので、彼のコラムをもとにさらにもう一歩踏み込んだ分析をしてみたいと思います。

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>> [東洋経済オンライン]日本代表の敗戦は、偶然ではなく必然だ

(1)ザック戦術の大前提となるプレスがかからなかった
 ザッケローニ監督は攻撃的サッカーを掲げているものの、その戦術指導の中で最も優れているのは守備の方法論だ。場面ごとにやるべきことを細かく教え、それを統合してチーム全体を“プレッシング・マシーン”に仕立て上げる。労を惜しまないチェックによって相手をサイドに追いつめ、選択肢を狭めたところでボールを刈り取る。今大会に向けた準備期間、ザック流プレスのおさらいを入念に行なった。

 だが、コートジボワール戦では、その自慢のプレスがまったくかからなかったのである。
(中略)
 チームとして本気でボールを奪いに行くのであれば、中盤の選手が援護射撃をすべきだったが、後ろにいた選手たちはそこまでのリスクを冒そうとはしなかった。
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確かに、前線のふたり(大迫勇也選手と本田圭祐選手)は懸命にチェイシングしていましたが、中盤以降の選手は相手がハーフウェイラインを越えてきてもまだプレッシングをかけませんでした(それが原因だったのか、ふたりの運動量はまたたく間に激減しましたね)。

ここで疑問がひとつ湧きます。「どこからボールを獲りにいくのか」という約束事がチームで共有されていたのか否か、です。

日本代表が理想としている戦術
日本代表の特徴は、プレッシングを核としたコンパクトなサッカー。諸外国と対戦する際、小柄な日本人選手は上背でもリーチでもフィジカルでも分が悪いシーンが出てきます。一方で日本人の強みと言えば、豊富な運動量と組織プレーに尽くす献身的なメンタル、そしてスピーディで精度の高いパスワーク。デメリットを補いつつメリットを最大限に活かすための戦術として、フォワードからディフェンスラインまでの距離を詰めに詰めたコンパクトなゾーンを形成するスモールフットボールが基盤です。相手ボールホルダーに対して2人(多いときには3人)でボール狩りに行き、奪ったと同時にショートカウンターを見舞う。日本代表が“流れのなかでゴールを奪った”シーンのほとんどが、このボール狩りからのショートカウンターでした。

■チームとしての約束事がなかったのか……
この戦術を採用するにあたり、生命線となるのが「どこからボールを奪いにいくのか」、いわゆるチームとしてのスタートラインをどこに設定しているのか、です。ショートカウンターがひとつの攻撃の型なのであれば、そのスタートラインはハーフウェイライン前後となるでしょう。より高い位置でボールを奪えた方が、相手ゴールまでの距離が短くて済みます。また相手DFに守備陣形を整える時間を与えませんし、確率論で言っても、ゴールを奪えるパーセンテージは飛躍的に向上するわけです。

好調時の日本代表の試合を俯瞰的に見てみると、フォワードからディフェンスラインまでの距離が短いことに気付きます。おそらく設定数値は11〜12メーターほどでしょうか。そしてセンターサークル付近の相手ボールホルダーに対して素早い機動力をもってミッドフィルダー陣が襲いかかります。そこをしのいだとしても、背後からディフェンダーが詰め寄り、奪ったと同時にサイドまたは空いたスペースへと中距離パスで展開、相手ゴール前へと運ばれていきます。

この戦術の代名詞的存在が、長谷部誠選手と今野泰幸選手です。特に今野選手は上背こそないものの、鋭い読みで幾度と相手の攻撃の芽を摘んできました。彼がコートジボワール戦のスタメンに入っていなかったことは驚きでしたが、それだけ森重真人選手のコンディションが良かったというザッケローニ監督の判断なのでしょう。

話を「ボール狩りをするスタートライン」に戻しますが、確かに木崎さんの言うとおり、前線のふたりと中盤以降の動きが連動していなかったのは、試合を観ている人なら誰でも分かったこと(その結果、どんな弊害が起こるのか……については木崎さんのコラムをご参照ください)。しかし、こういう戦略は監督主導のもと、事前にチームで共有されているのがサッカーの常識。4年間もほぼ固定メンバーでやってきた日本代表なら、“詰めどころ”はスタメンのほとんどが理解していて当然です。

理由はどうあれ、チームとしての約束事が統一されていなかったという事実だけが残りました。木崎さんのコラムにこうあります。

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 ザックジャパンはこの4年間、プレスの練習に継続して取り組み、いい守備ができたときに、高いパフォーマンスを発揮してきた。高い位置でボールを奪えると、縦に速い攻撃をできるからだ。だが、言い換えれば、いい守備ができないと、パフォーマンスが著しく落ちるということでもある。

 その一方で、本田や遠藤保仁は自らの技術力と発想力を生かすために、緻密なパス回しによる崩しに取り組んできた。
(中略)
 だが、それを完成させるには時間が足りなかった。緻密なパス回しは発展途上のまま大会を迎えてしまう。
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4年間率いて「時間が足りませんでした」? 「高値がつくと思ったんですけどねぇ」とトンズラこく先物取引詐欺の話かと思いましたよ。選手がどれだけわがままであったとしても、チームとしてプレーすることを求め、マネジメントするのが監督の仕事です。世界にはもっと聞き分けのない選手を抱えたチームが存在しますし、エース級の選手と対峙してもチームづくりに従事する監督は大勢います。そういう意味では、ザッケローニは指揮官……というよりは、組織の長としての仕事ができていなかったということ。この人に年俸2億7000万円(推定)を4年間支払い続けてきていたかと思うと、目眩がする想いです。(ちなみに、今大会の大番狂わせのひとつを起こしたコスタリカのホルヘ・ピント監督の年俸は約4500万円だそうです)


■やるべきことは明確
「実は、今まで割りと行き当たりばったりな戦い方をしていたから」、「ザッケローニが戦術を浸透しきれていなかったから」、「W杯本番のプレッシャーで萎縮してしまい、普段どおりのプレーができなかった」などなど、推測だけで言えばいくらでも要因は出せます。でも、それをこうした場であげつらって「だから○○○が悪い」と批判しても、日本代表というチームの状態は良くなりません。

大事なのは、原因を明確にし、“それを解消して次につなげること”です。

「チームとしての戦い方のオプションがひとつしかなかった」と言われていますが、こんなことザッケローニ体制になってからこれまで何度も言われてきたことです。一年前のコンフェデレーションズカップでその弱点をさらけ出し、監督解任説まで出たにもかかわらず、日本サッカー協会は続投という判断を下し、ここまで来ました。正直、「何を今さら」と言いたい。本田の1トップの後ろに大久保、香川、岡崎が並ぶ“4年前の守備戦術への回帰”はタチの悪いジョークにしか見えませんでした。結局、日本代表は4年前から何も進歩していなかった。その本質に気付いていたのはほんの一部の識者だけで、彼らの叫びは日本サッカー協会の胸には響いていなかったのです。申し訳ないですが、サッカー協会は素人じゃないんですから、「ザッケローニの力量を見極められませんでした」などと言う言い訳は通りません。この功罪はとてつもなく大きいと思います。

調子が良いときの日本代表なら、次戦のギリシャは決して難しい相手ではないはず。しかし一方で、これ以上ない完敗を喫したチームが精神的に立ち直れているのか、どん底から一気にピークの状態までメンタル面を回復できているのかは甚だ疑問です。本田選手は「メンタル面の問題だけだから、修正は可能」と強気の発言をしていましたが、ほかの22人が同じようにV字回復させられるかと言われれば、ほぼ無理でしょう。“負け方が悪すぎる”“もともとムラっ気があるチーム”“監督までが動揺している”など、克服するには困難すぎるポイントが多すぎます。でも、可能性はゼロではない。大会後の成長につなげるためにも、ザッケローニはじめ日本代表の面々にはできうる限りの対策を講じていただきたい。

チームをマネジメントしているザッケローニ監督が原因を受け入れ、チーム全体で共有し、そして誰もが納得できる解決策を提示して修正に腐心すること。シンプルですが、唯一の立て直し方法だと思います。次のギリシャ戦でそのポイントが修正されているか否か、僕はそこに注目したいと思います。

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