2014年6月18日水曜日

イタリアの閂は地中海を越えて

【2014 ワールドカップ ブラジル大会 1次リーグ グループH ベルギーvsアルジェリア】

イタリアの閂(かんぬき)は、地中海の向こう岸にたどり着いていたようです。

近年、有能な若手選手を多く輩出しているヨーロッパの古豪ベルギー。勢いに乗っている彼らを中心に組み立てられた代表チームは、それまで“世界の壁”を敗れないでいたこの国をリフレッシュさせ、一気に世界の檜舞台へと駆け上がってきたのです。今大会におけるベルギーは、もっとも期待値が高いダークホースとして注目を集めていました。

初戦の相手は、アフリカ北部の地中海に面したアルジェリア。ジネディーヌ・ジダンの出生国であることは有名ですが、W杯本大会に顔を出す国ではあるものの、カメルーンやコートジボワール、ガーナなどと比べると派手さに欠けるというか、イマイチぱっとしない印象でした。選手の名前だけ見比べても、明らかにベルギーの方が格上。今大会で暴れ回るであろうベルギーが弾みをつける試合となるか……試合前、そんな夢想をしていました。

開始からまもなく、ことがそうカンタンではないことを思い知らされます。

ベルギーの選手がハーフウェイラインを越えてきても、なかなかプレッシャーをかけにいかないアルジェリア選手。そのままアタッキングサード(ピッチを三等分した際の敵寄りのゾーン)へと侵入……した途端、ボールホルダーに対して3人のアルジェリア選手が詰め寄ってきて囲い込み、瞬く間にボールを狩ってしまうのです。自陣ゴール前での守備に人数を割いているため、ボールを奪ってもロングボールを蹴ってそれをフォワードが追いかけるだけという単調なカウンターになってしまうのですが、バイタルエリア前に張られた守備ブロックは堅牢。アザールやデンベレ、デ ブライネといったテクニックに秀でた選手が切り込もうにも、あまりに緻密な守備ブロックのためにまったく突破できず。ボールをまわすベルギーが、アルジェリアの守備陣を睨めつけながら攻めあぐねる、という時間が続きました。

これ、カテナチオですやん。

イタリア語で「閂」(かんぬき)を意味するカテナチオは、ゴール前に人数を割いて徹底的に守り切る一昔前のイタリア代表の守備スタイルのこと。近年のイタリアは攻撃サッカーを標榜するプランデッリ監督のもと、スタイルチェンジを模索し徐々に浸透しつつあるようで、かつてのカテナチオ戦法は影を潜めるようになりました。まさかそのイタリアの閂が、地中海を越えた北アフリカの地にたどり着いていたとは知りませんでした。




■4年前の日本代表と姿が重なる
「絶対に失点は許さない」、そんな強烈な意思を感じさせるアルジェリアが選んだリアリストの戦法。奔放で身体能力を前面に出したプレーのイメージが強いアフリカンながら、勝利に徹するため組織プレーに準じ、それぞれが自身の仕事を完遂して勝利を手にしようとしていました。前半のPKはかなりラッキーパンチでしたが、そうした要素も勝利のための選択肢としてプログラミングしていたアルジェリア。アフリカンといっても、アルジェリアは地中海に面した北アフリカの国で、海の向こうはもうヨーロッパ。あまりアフリカの色合いが濃くはないのかもしれませんが、ここまでチームとしてまとまり、組織プレーに準ずることができるとは、正直驚きでした。

残念ながら、その組織戦術は90分持たず、守備の綻びを突かれて2失点、逆転を許し惜しくも初戦を落としてしまったアルジェリア。相手のスキを逃さなかったベルギーのしたたかさにも大いに感心させられましたが、今大会注目のチームを向こうに回して冷や汗をかかせたアルジェリアの戦いぶりが印象に残りました。

よくよく考えれば、このアルジェリアの戦い方って4年前の南アフリカW杯に挑んだ日本代表によく似ているんですよね。ここまで大雑把な攻撃ではありませんでしたが、田中マルクス闘莉王や中澤佑二を中心とした堅牢なディフェンスをベースに、阿部勇樹というアンカーを前に置き、鉄壁の守備網を敷いたのです。攻撃はキープ力のある本田圭祐を1トップに抜擢、両サイドには同じくキープ力に秀でた松井大輔と大久保嘉人を配し、激しいアップダウンを要する運動量を求め、数少ないチャンスを活かして勝ち抜こうとするカウンター戦法でした。

それまでの親善マッチでまったく結果がついてこなかったことから、追いつめられた感があった岡田武史監督がギリギリで選んだ、当時の日本代表メンバーの能力を最大限に活かした“勝利に近づく”ための戦術。結果的にベスト16という好結果を引き出すことに成功しましたが、その決勝トーナメント一回戦であるパラグアイ戦において、“両翼”の松井と大久保のコンディションが限界に来ており、グループリーグ3試合のようなパフォーマンスを発揮できずに敗れ去るという「日本の限界を思い知らされた結果」でもありました。

そうした背景もあり、「南アフリカでの教訓を踏まえ、ベスト16の壁を破れる強い日本代表をつくる」として4年間強化をしてきたわけですが、当初の志を失ってしまったのか、その道中で「この歩み方、なんかおかしくね?」という声があったにもかかわらず日本サッカー協会は目を背け、ただ4年間を費やしただけの日本代表をブラジルの地へと送り込んでしまいました。ええ、まだ2試合ありますが、結果は推して知るべし。

自分たちの実力を客観的に分析することなく、「コートジボワールだろうがどこだろうが、俺たちは勝てる!」と過信した日本と、自分たちの実力を鑑み、初戦であたる強豪国ベルギーに対して「一太刀浴びせたい」とリアリストに徹したアルジェリア。結果は同じ1-2での敗戦でしたが、そのあとに残った手応えという意味で言えば、大きな差があると思います。

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