2014年6月8日日曜日

中田英寿を忘れない

日本がワールドカップに挑む……そのたびに、頭をよぎる光景があります。2006年ワールドカップ ドイツ大会での日本代表の姿です。よくご存知の方は「もういいよ、その話は」とおっしゃられるかもしれませんが、だからこそ振り返っておきたい出来事だと思うのです。

ジーコ監督率いる日本代表は、ドイツの地で無惨に敗れ去りました。日本は強豪国のひとつではありませんから、いつであれワールドカップに挑めば負けるときが訪れますし、それを糧に、4年後、その次へとつなげて戦い続けてきました。初挑戦となった1998年フランス大会はもちろん、自国開催となった2002年日韓大会でも決勝トーナメント一回戦でトルコに辛酸をなめさせられていますし、2010年南アフリカ大会でも同様。敗北は、次なる挑戦へのスタート。何も恥じることはありません。

しかし、ドイツでの惨敗はそれまでの敗北とはずいぶん意味が異なるものでした。日本サッカーの歴史を語るうえで欠かせない“ドーハの悲劇”とも違う惨めなもので、結果論ではありますが、過信した未成熟なチームの末路とも言うべき敗北だったと言えます。そんな日本代表を、良くも悪くも象徴していた存在が、中田英寿という選手でした。

日本代表がまだワールドカップに出場できずに足掻いていた時代に登場した中田は、1997年、フランス大会アジア予選前の親善マッチである韓国戦でフル代表デビューを果たすと、名波浩や山口素弘とともに代表の中盤を形成、瞬く間に中心的存在となり、結果的に日本初のワールドカップ出場権獲得の原動力となります。以降の彼の活躍ぶりは書く必要はないでしょう。1998年フランス大会、2002年日韓大会と続けて日本の中軸として大車輪の活躍を見せ、彼なしでは強い日本代表が成り立たないほどでした。

ドイツ大会での最後の試合となったブラジル戦後、中田英寿は突然の現役引退を表明。29歳という若さでの引退に、日本のみならず世界中が驚いたことでしょう。個人的には、自身のウェブサイト上での発表のみで引退会見を開かなかった彼のスタンスには疑問を抱いてはいますが、中田なりに考え抜いたことでもあったでしょうから、そこは敬意を示したいと思います。

ドイツ大会に挑むにあたり、代表チームは二分していたと言います。“中田派”か“反中田派”か。ジーコ監督から全幅の信頼を寄せられていた中田は、どれだけコンディションが悪くてもチームに合流すればスタメンの地位が約束されているほど重宝されており、チームメイト……主に国内組(Jリーガー)から疎まれていたと言います。彼の直接的な物言いも、そうした空気感をより悪くするものだったでしょう。

結果論ですが、その意識の相違をあえて言い表すとすれば、「世界を相手に勝利するための努力を強いた中田英寿」と「チームとしての調和を乱すウイルスに対して敵愾心をむき出しにしたチームメイト」。2010年南アフリカ大会におけるカメルーンやフランスのように、待遇の悪さや監督に対する不満から内部崩壊を起こすチームは珍しくありません。が、それで貴重なワールドカップでの挑戦を無駄にするというのは、これまで戦ってきた対戦相手や応援してくれている人に対して失礼なこと。

ワールドカップにおいて、何より優先すべきは“勝利すること”。そういう意味では、中田英寿も他のチームメイトも、目的は同じだったと思います。ただ、それぞれが見ている景色が異なっていたため、歩み寄ることができなかった。結果、チームは一枚岩とはなれず、肝心要の連携がバラバラのところを敵に突かれ、グループリーグ最下位でドイツを後にすることとなりました。

ドイツでの敗因をあげるとすれば、マネージメント能力が致命的に欠落していたジーコと、盲目的に彼を起用し続けた日本サッカー協会だと言えます。チーム内における不協和音は、本大会に挑むずいぶん前から世間を賑わせていました。試合における采配や戦術の立て方に対する疑問、そしてチームそのものをコントロールするマネージメント能力が欠落しているところが指摘され、「ジーコで大丈夫か」という声は確かに存在していました。もっと早くに不満が爆発していれば、事前に手が打てたかもしれませんが、ギリギリの状態で保たれていた緊張感は、初戦のオーストラリア戦で露呈し脆くも崩れ去るという最悪の結果を生んでしまったのです。

僕自身は、ザッケローニ率いる今の日本代表に対しては批判的です。ここまで来たら祈るのみではありますが、今までの歩みやザッケローニのマネージメント、チームが醸し出す雰囲気、これまでの戦いぶりなどを見ていると、なぜか2006年ドイツ大会時の代表チームを思い出してしまいます。もちろんザッケローニは世界に名だたるプロフェッショナルとして、3年半にわたって日本代表チームを形成してきたわけで、彼は与えられた任務を忠実に遂行したまで。彼に非はありません。

別に今の日本代表のなかで不協和音が生まれているなんてことはないでしょう。ただ、先のザンビア戦などを観てもチーム状態が上向いていないことは明白。本田圭祐に昔のような当たり強さは戻ってきていませんし、アタッキングサードに侵入してからのパスや動きもちぐはぐしている感じ。アディショナルタイムにおける大久保嘉人の劇的ゴールには大いに驚かされましたが、その直前に同点にされたとき、「これでチーム内の危機感が高まれば、変化が起こるかも」という小さな期待を抱きました。大久保のゴールは誰もが待望していたものですが、あれによって持っておくべき緊張感が霧散した印象すらあります。大久保を救世主扱いする報道を見るたびに、ため息しか出てきません。

これまでの日本代表の歩みが正しかったのかどうか……結果は、まもなく出てきます。ただ、今一度思い出して欲しいのです。2006年ドイツ大会に挑んだ中田英寿をはじめとする日本代表の姿を。今の選手やサポーターはみんなあのときのことを覚えているでしょう、なかにはそのときの代表チームにいたり、ドイツまで足を運んだ人もいると思います。

あの苦い経験を糧に、改めて自分たちの目標を再確認し、できうるすべてのことに取り組んで欲しい。これが、最後のワールドカップだと思って。
 

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