2014年5月12日月曜日

モーターサイクルを取り巻く環境 #01

最近……という言い方は極端ですね、ここ10年ほど、と言っていいかもしれません。ミレニアム(2000年)を境に、モーターサイクルを取り巻く環境は大 きく変わったように思えます。2000年というと、僕がちょうど大学を卒業した年で、モーターサイクルに出会い、実際に乗るようになったのが20代後半で したから、まだモーターサイクルというものにまったく興味を持っていなかった頃。そのときの業界を語るなんておこがましいことではありますが、ひとつの区切りとして、目安として捉えていただければ、と思います。

ひとつ挙げるとすれば、ハーレーダビッドソンの爆発的な普及でしょう。

かつては“手が届かない憧れの存在”だったハーレーダビッドソンが、ローンを組めば誰もがそれを手に入れられる”手が届く身近な存在”へと変わり、またたくまに日本中にハーレーオーナーが増えていきました。ハーレーダビッドソンジャパン主催のビッグイベント『ブルースカイヘブン』全盛期では参加台数が1万台を軽く超えたことも。最近こそその勢いに若干陰りが見えるものの、輸入二輪メーカーというくくりで言えば、昨年の新規登録台数のグラフを見てもそのシェ ア率が全体の6割におよぶなど、圧倒的な地位を確立させています。それも、やはり“ハーレーダビッドソン”というブランド力のなせる業なのでしょう。

ハーレーダビッドソンの爆発的な普及により、モーターサイクルを取り巻く環境にも変化が出てきました。そのひとつが、ライダーのファッションだと思います。かつてレーサーレプリカ全盛期と呼ばれた時代には安全パッドが入ったウェアをまとうのが一般的だったものが、アメリカのモーターサイクルカルチャーを インスパイアし、昔の方々から見れば極めてラフで、そのまま街中を歩けるようなファッショナブルなものへと変わりました。最近ではヨーロッパのカスタムシーンの広まりからか、ドゥカティやBWMの純正アパレルもファッショナブルなものへと移行しています。ハーレーダビッドソンは……昔から変わらないですね(笑)。トライアンフは、やはりロッカーズの本場ということもあるのか、昔からカッコいいものを提供し続けています。

僕がハーレーダビッドソン専門ウェブマガジンを担当していた際、手がけていたコンテンツのひとつにファッション系がありました。イベント会場などでユーザーを取材し、「お、ちょっとオシャレやん」ってお兄さんお姉さんに「ファッションポイント、教えてください」って取材して、同サイト自慢の講師にご覧い ただき、コメントをしていただくというドン小西方式。僕自身、昔からファッションというものへの興味・感心は高かった方なので、楽しく携わらせていただきました。

一方で、ハーレーダビッドソンに限らずモーターサイクルに携わる期間が長くなるにつれ、痛感させられることがありました。それは、“バイクに乗ることへの覚悟”です。

モーターサイクルという乗り物は、クルマでは味わえない魅力を秘めた存在ですが、危険とも隣り合わせでもあります。某かの接触事故を起こせば、即人体。クルマのように外壁が守ってくれることはありません。速度はクルマと同等。クルマがぐしゃぐしゃになるような事故に巻き込まれれば……「イヤなことばかり言うなよ」と思われるやもしれませんが、これがモーターサイクルの現実。

海外に行くと、とあることに気付かされます。それは、モーターサイクルがカルチャーとなっていること。もちろんそれぞれの国の風土ありきで、アメリカにはアメリカでの、イギリスではイギリスでの、日本では日本での“文化としてのモーターサイクル”の根付き方というものがあります。ただ、海外のそれは日本とはまったく異なる、国の文化の根っこでつながっていることを感じさせられるのです。

特に感じたのが、アメリカ。日本だと、普段モーターサイクルにかかわらない人たちにとっては「バイクって危ない乗り物」以外の何物でもないでしょう。実際、僕の実家がそうでした。僕以外、モーターサイクルに興味を持っているのは親戚に目を広げてみてもまず見つかりません。で、そういう悪しきイメージだけが植え付けられている。
アメリカは違いました。もちろん中にはモーターサイクルを毛嫌いしている人がいるのでしょうが、出会ったなかで「この人の人生にはモーターサイクルは関わっ ていないんだろうな」という人でも、暖かく迎えてくれる人が多かったのです。外国人に対して優しかったから、というレベルのものではなく、アメリカという国にモーターサイクルがカルチャーとして根付いている、そう感じさせられました。
それが確信へと変わったのが、昨年創業110周年を迎えたハーレーダビッドソン アニバーサリー セレブレーションの取材で訪れたウィスコンシン州ミルウォーキーでのこと。そう、ハーレーダビッドソン発祥の地です。オフィシャルとしては約4日間にわ たって繰り広げられた大イベント、ミルウォーキーという街を貸し切っての催しでした。土曜日のパレードに至っては、街中の道路が規制され、何万台という ハーレーオーナーのためのパレード用ルードが設けられ、その両脇を街の人々が囲み、盛大なものとしていたのです。これ、例えばカワサキが同じことをやろうとして、神戸市が3日間警察を動員してここまでやってくれるでしょうか? ヤマハのために磐田市が街を貸し切り状態にしてくれるでしょうか? 日本がエンターテインメントという名目で、警察を動員しての交通規制を行ったのは、最近だと2002年ワールドカップ日韓大会のときぐらいでしょう。あと は、プロ野球やJリーグの優勝パレード、ゴールドメダリストの凱旋パレードなどか。それも、一日、いや数時間程度の規制です。この創業祭のスケールは、アメリカと日本で比べると天と地ほどの差があったのです。

まさしくハーレーダビッドソンは、アメリカのカルチャーそのものでした。だから、普段ハーレーに乗っていない人にも、ハーレーダビッドソンというものがアメリカにとってどんな存在か知られており、そのカルチャーたるモーターサイクルを愛してくれる人は、どこの国だろうと関係なく暖かく迎え入れてくれるので す。僕ら日本人にもそうした“おもてなし”の心は存在しますが、ことモーターサイクルという点から見たとき、まったくかなわないし、たどり着くことができない領域であることを思い知らされました。ゆえに、今のモーターサイクルを楽しむうえでのファッションについては、あらゆる面で理解され難いところが存在します。

最大の理由は、モーターサイクルに乗るうえでの覚悟だと思うのです。

前述したとおり、モーターサイクルはたとえようがない快楽と大きな危険性という二面性を持った趣味の世界です。究極的に言えば、どんな格好をして乗ろうが 個人の勝手。大排気量バイクに半キャップで乗ったって、Tシャツでスーパースポーツモデルに乗ったって、究極的には自己責任。それをオーナー自身が理解したうえでまとっているなら、他人が何かを強要することはできません。

一方で、“他人に迷惑をかけない事故”など存在しません。対物、対人はもとより、自爆系事故であっても、その後何かと後処理をする関係者がいますし、怪我をすれば介抱をしてもらう必要があり、命を落とせば家族を遺族にしてしまうのです。「この格好で乗っていたのは、俺のポリシーだから」と言っても、遺書かなにかに書き留めていなければ誰にも伝わりませんし、書き留めたところで遺族が「そうか、なら仕方ないな」と終わらせることもありません。
アメリカだったら、そんな反応はされない……と、そこまで極端なことを言うつもりはありませんが、少なくとも同じ事故があったとしても、アメリカと日本とでは反応がずいぶん違うものになるでしょう。土台である国としての風土、国としての文化に根付いているか否か、がその差です。これ、僕が20年以上深く見 続けてきた日本サッカーに関しても同じことが言えます。1993年にJリーグが誕生し、着々と進化し続けてきている日本サッカーですが(拝金主義な現状も “進化の一端”として見ています)、文化と呼べるかと言われれば、まだまだ。プロ野球ですら、その領域に達していません。

僕個人はと言うと、メディアという立場から、ファッションを含めたライフスタイルを切り口に、さまざまなモーターサイクルの楽しみ方を提案していきたいと思っています。その一方でライダーの安全に関する啓蒙活動にも携わらねばと考えているのですが(バイク盗難事件なども、そのひとつ)、ときにこの両者…… ファッションという面におけるライフスタイルと安全の啓蒙活動が相反するものとなり、それでいて「どちらが間違っていて、どちらが正しい」とは言えないジレンマに陥るのです。

結果として、最後は個人の判断と言わざるを得ません。その根っこにあるのは、オーナー自身のモーターサイクルに乗ることへの覚悟がどれほどのものか、になると思うのです。本来なら、そうした側面を含めた啓蒙活動はメディア全体で執り行っていかねばならないのでしょうが……現状はそうなっていませんね。その話は、またの機会にするとして。
仕事柄、モーターサイクルのカスタムショーにも足を運ぶことがあります。こうした会場には比較的若い人が集まるのですが、ファッション性やライフスタイルのみ優先したカスタムバイクやファッションを見受けることが多少というか、多々あります。事故は、本人の思いもよらぬタイミング、思いもよらぬ状況で引き起こされるもの。そのときに、自分のみならず、自分の家族やさまざまな人に対する覚悟ができているかどうか。それが、僕自身備わっているかどうか……。そ うしたシーンに遭遇するたび、感じさせられることです。


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