2014年5月30日金曜日

ブラジル後は、日本人監督の起用を

本大会に向けて23名のメンバーが飛び立った今、グダグダ言っても仕方ありません。あとは彼らがベストの戦いを見せてくれ、そして祈るのみ。ただ、ワールドカップを前に、これだけは言っておきたいと思いました。日本代表監督 アルベルト・ザッケローニについての所感です。

「4年間も率いてきて、こんなチームしかつくれないのか」

それが、僕のザッケローニ評……でした。ベースは2010年南アフリカ大会のときと変わっておらず、本田圭祐や香川真司など個人レベルでのベースアップ(海外でのキャリア等々)だけが唯一の上乗せ。柿谷や大久保を招集したのも、行き詰まった感があった得点力アップのために取ったやむなしな選択肢で、僕はザッケローニが彼らを正当に評価したとは思っていません。だったら、同じように国内で結果を出していた佐藤寿人(広島)などのJリーガーをきちんとチェックしろよ、と思うからです。

「じゃあ、あんたは誰がベストな監督だと思うんだ?」と言われれば、迷わずイビチャ・オシムを挙げます。「日本を日本化する」と宣言し、招集した選手に求めたのは高いインテリジェンス。「日本人はコレクティブでテクニックに秀でている。それが90分持続できれば、十分世界と渡り合える」という信念のもと、当時さほど名が知られていなかったJリーガーを多数起用。海外クラブに所属する“海外組”はあくまでオプションまたはプラスアルファで、土台はコンスタントに招集できるJリーガーとされました。

理論的には、もっとも正しい代表チームの強化方針だと思います。結果として、華やかな選手名が並ばない代表戦からは閑古鳥の鳴き声が聞こえ、発売と同時に売り切れると言われた代表戦チケットは当日券が出るほどに。オシムが求めるレベルの高さ(インテリジェンス)から選手が理解するまで時間がかかり、しばらくは成果もともなわないなど、シビアな時期が続きました。が、目の肥えたメディアやファンは「これ、成熟すれば最強の代表チームができるんじゃないか?」と期待に胸を膨らませ、静かに彼らの動向を見守っていました。

残念ながらオシムが脳梗塞で倒れ、奇跡的に一命は取り留めたものの、代表監督という激務は務められないと辞任。日本代表チームにおけるオシムの“日本化”は完成することがありませんでした。

ハンス・オフト、そしてイビチャ・オシムと、日本に敬意を示し、日本が世界と伍するにあたって強化せねばならないポイントを見極め、そのために心血を注いだ外国人代表監督は存在しました。その点で言えば、ザッケローニの施策は“強化”と呼ぶにはほど遠いものでしたが、一方でそうした過去の偉人と見比べ、過小評価していたところが僕にもありました。

改めて、今思います。ザッケローニはリアリストであり、プロフェッショナルだ、と。

オシムとザッケローニ、あえてこのふたりを比較するとした場合、どこが争点になるか……「その国の代表監督として、最終目的地をどこに据えているか」ではないでしょうか。オシムは、自身が退任したあともその礎となるような基盤を残すべきと考えてのチーム強化策を選んだのです。翻ってザッケローニは、4年間という契約のなかで最強のチームを作り上げ、ワールドカップにふさわしいチームを送り込むことだったと思います。

オシムは、遠い遠い日本サッカーの将来を見ていた。
ザッケローニは、2014年ブラジル大会を目標としていた。

そう見れば、改めて彼らふたりを比較すること自体がナンセンスだと思えてきたのです。当たり前のことですが、ザッケローニは別に日本に骨を埋める気はないでしょうし、“リアリスト”イタリア人らしく契約期間内での最高の仕事をこなそうとしているに過ぎません。本田や香川ら海外組を主軸としたのも、「現時点でもっともレベルが高い選手を軸とする」という極めてシンプルな論理。彼の代名詞である3-4-3システムを取り入れなかったのも、「日本人にフィットしない」と彼が判断した。それだけのことです。

オシムは、契約以上のことをしてくれたのです。彼のサッカーへの愛情は我々が推し量れない領域のもので、そこに親日家としての感情が含まれ、持てる知識と経験をすべて日本サッカーのためにつぎ込もうとしてくれました。決してザッケローニがサッカーを愛していない、日本に敬意を表していないとは言いません。単純に、ザッケローニは4年間の契約内で最高の仕事を遂行しようとした。その契約書に、“日本らしいサッカーを展開すること”“将来につながるチームづくりをすること”という項目は含まれていません。ザッケローニがそこまでしなかったからと言って、誰が責められるでしょう。

そういう意味で、オシムはアンタッチャブルな存在であり、彼ほど世界のサッカーに精通し、日本のために尽力してくれるような人材はもう出てこないと思います。オシムのサッカーが完成していれば、今の日本サッカーの姿は大きく変わっていたでしょうが、無い物ねだりをしても仕方ありません。

2010年南アフリカ大会後、代表監督の座に就任したザッケローニは4年間における職務を全うし、ブラジルでの結果にかかわらず、大会後には退任するとの発表がありました。結果がどうなるか、それは蓋を開けてみなければ分かりませんが、どのような終わり方にせよ、最後はザッケローニに謝意を示し、イタリアに凱旋して欲しいと思います。

そして、あえて今、ブラジル大会後の日本代表、そして日本サッカーというものを見据え、ひとつ提言をさせてください。

日本人指揮官の起用を求めます。

海外のクラブで活躍する選手が増え、日本人プレーヤーのレベルは数年前と比べて飛躍的に向上しています。一方で、世界のサッカーの主戦場はヨーロッパであり、日本とは飛行機で10時間以上かかるほど離れた地であることを改めて認識せねばなりません。つまり、“日本代表を強化する”という点で言えば、海外クラブ所属の選手を軸としたチームづくりでは、そのクオリティが安定することはないのです。

日本は、世界の強豪国のひとつではありません。サッカー発展途上国であり、チャレンジャーなのです。ボクシングの世界タイトルマッチに挑む挑戦者が、チャンピオンと同じような強化をしないのと同じで、「ワールドカップで優勝したい」と本気で思うなら、かの強豪国以上のトレーニングに挑まねばなりません。

日本に対して愛情を持ち、日本のために尽くせる指揮官……日本人監督しかいないのです。そして、日本の事情を鑑み、Jリーガーを中心とした代表チームの強化に腐心していただきたい。そのためには、Jリーグそのものも今まで以上に盛り上げ、強化策の一貫として見ていかねばならないでしょう。それは日本サッカー協会はもとより、サポーター、メディア、そして国民全員が取り組むべき事案です。そう、“ワールドカップでどこまで勝ち進むことができるか”ということも重要ですが、“ワールドカップに誇りある代表チームを送り込めるか”という点こそ重視せねば。それは国全体の取り組みとして必要なことだと思います。

まずは、日本人指揮官の起用という第一歩から。
 

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