2014年5月12日月曜日

ワールドカップに出場する意義

ワールドカップ ブラジル大会に挑む日本代表メンバー23名が発表されましたね。発表後、さまざまな報道が飛び交っていますが、一番多いのは“サプライズ招集”だという大久保嘉人に関するニュースでしょう。現在Jリーグでも絶好調の点取り屋で、前回大会での実績もある。勝利への飽くなき執念という点でも、非常にメンタルが強い。さまざまな観点から見ても「呼ばれない理由が見当たらない」「なぜ呼ばれないのか」という声が飛び交うなか、土壇場での選出。どよめきが生まれたのも当然でしょう。

が、そこまで短絡的な話でもないと思います。

今回大久保が招集されたことで薄れた感がありますが、Jリーグで結果を出している選手はまだまだたくさんいます。同じ川崎フロンターレの中村や広島の佐藤、新潟の川又、鹿島の柴崎……。あるときを境に中村や左藤は招集されなくなり、フレッシュな若手は直前の国内合宿のみ。大久保の選出もドラマチックに語られていますが、まったくもって理に適っていない。「土壇場でも計算できる選手」? 2年半も呼ばなかった、使わなかった理由にはなっていません。しかも、「彼の代わりに若手を起用して」というくだりがありましたが、つまりはその起用し続けた若手が大久保を超えられなかった、とでも言いたいのでしょうかザッケローニは。

こうしたサプライズ招集は過去にもありました。代表的なのは2002年日韓大会のゴン中山と秋田の選出でしょう。当時の監督はフィリップ・トルシエで、世代別の代表チームすべてを管轄し、全チームに『フラット3』と呼ばれる基礎戦術を植え付け、一貫教育よろしく全世代を育てての自国開催の大会への攻略としました。

そのまま本大会に突入……と思われた最終メンバー23名発表時、それまで招集されなかったゴン中山と秋田の名が呼ばれたのです。しかも、彼らの代わりに選出されなかったのが、中田英寿とともに代表チームの顔となりつつあった中村俊輔。当時、事前に俊輔が外れることを聞いたアディダスジャパンは大騒ぎになったと言います(日本代表のサプライヤーであるアディダスは、同メーカー契約選手である中村俊輔を全面的に出していくつもりだったから)。

トルシエは、土壇場でベテランの力に頼ったんです。

まったくもって悪いことではありません。世界最高峰のサッカー大会であるワールドカップです、いくらそれまでチームを徹底的に鍛え上げ、これ以上ないほど熟成させたという自負があったからといって、それが勝ち抜ける保証はどこにもありません。どうしても破れない最後の壁の倒し方や、負けこんで不穏になるチーム内の空気を切り替えられる術を知っているのは、やはりベテラン。しかも、修羅場をくぐり抜けた一握りの選手。

技術ではなく、メンタル。

代表チームといっても、大体のチームの平均年齢は20代前後になります。若さは勢いを生みますが、強敵が立ちふさがったときの越え方までは知りません。そんな彼らに知恵を授けるのは、ベテラン選手だけ。監督でもスタッフでもない、ピッチのうえで「大丈夫」と言える経験者だけなんです。

ザッケローニも、ワールドカップという魔窟に挑むうえで、やはり攻撃陣にベテランというカードを持っておきたかったのでしょう。しかも、Jリーグでノリにノっているこの男を懐に置いておきたかったのでしょう。それはいいんです。逆に、大久保が選ばれたのはサプライズでもなんでもなく、当然という他ありません。

僕が問題視しているのは、今までの経緯です。

土壇場で大久保嘉人を選んだ。じゃあ中村や佐藤らとの違いは? それぞれ起用して比べたときがあった? 大久保が「計算できる選手だ」と言ったけど、Jリーグでの活躍がそのまま本大会に反映される保証はどこにもないんです。国内合宿張ったのに、なんで呼ばなかったの? などなど。

要するに、チームの強化方針に一貫性がない。

“たら・れば”の話で恐縮ですが、もし本田や香川が所属クラブで絶好調だったら、大久保は呼ばれていなかったと思います。レギュラーではない清武あたりが化け物じみた活躍を見せていたら、それも同様。正直、今の代表チーム全体のコンディションは良くないと言えるでしょう。それぞれの所属クラブでの活躍ぶりを見ていれば分かります。唯一勢いがあるのは岡崎ぐらい。一方で、その調子が上がらない本田や香川をチームの軸に置いているもんだから、今さらそこに手を入れるわけにはいかない。結局、「ええい、ままよ」的なメンバー選考が軸なわけです。でも今のメンバーだけでは不安だから……。そんなザッケローニの腹の内が見えるような本大会メンバー。こんなことで勝てたら、ワールドカップは苦労しません。

だからこそ、考えてみました。
ワールドカップに出場する意義とはなんなのか、を。

強いだけでは勝ち上がれないけど、強くなくては勝ち上がれない。それがワールドカップ。そうして代表チームが世界の檜舞台で活躍する姿を見て、子供たちは「自分もああなりたい」という輝いた夢を抱くのです。そんな夢を持った少年たちのなかから、第二の本田、第二の香川が生まれてきます。強い代表チームを作るということは、イコールその国のサッカー文化という土台を分厚くすることにつながるのです。だから、方針に一貫性を持たせたうえで、代表チームというものを強化していかねばならない。

ワールドカップは、四年間の集大成をお披露目する場です。

前回大会から今大会にいたるまでの四年間において、選手、監督、スタッフ、協会、サポーター、そして国民すべてがどれだけしっかりと自国のサッカーに情熱を注いできたかを、全世界の人はもちろん、サッカーの神様にお披露目する大事な大会です。そこにおいて、勝ち上がることも重要ですが、本大会に挑む代表チームがどれだけ自国への誇りを持ち、「これが日本だ」というプレーをし続けること。最後まで諦めずに走り続け、戦い続けること。

今や、世界最強を決めるのはワールドカップではなくUEFAチャンピオンズリーグに取って代わられた感が否めませんが、ワールドカップと比較することはできません。なぜならば、その歴史自体異なるものですし、大会の存在意義がまるで違います。

今回のメンバー23名は、僕らの国の代表として、世界中が注目する大会に挑むんです。彼らには、恥ずかしくない日本らしいサッカーをしてもらわねばなりません。しかし、その“日本らしいサッカー”というものが何なのか、具体的なスタイルをザッケローニはこの四年間で見せてはくれませんでした。

基盤がないから、メンバー選考もあやふや。

僕個人としては、ただただ不安です。選手個々のパフォーマンスだけで勝ち上がれるほどワールドカップは甘くありません。それは、これまでの出場経験で誰もが知っていること。とはいえ、ここまで来たものにグダグダ言っても、もう変えられません。あとは世界が判断してくれます。日本のサッカーが、世界最高峰の大会にふさわしいものか否か、を。

願いは、ひとつです。
恥ずかしくない戦いを。
ただただ、それだけ。

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