2014年5月28日水曜日

ブラジルとワールドカップとハーレーダビッドソン

ニュースで何度も報道されているのでご存知の方も多いでしょうが、ワールドカップ開催まで一ヶ月を切った現地ブラジルで、国民による暴動が相次いでいます。原因はインフラが整備されていないことに対する不満で、「ワールドカップを開催するぐらいなら、教育や医療制度に金をかけろ」というところのよう。

長らくサッカーの世界を見てきた人間からすると、「他の国ならいざ知らず、ブラジルで、かぁ」という気持ちです。言わずもがな、ブラジルはサッカーの国。ワールドカップで史上最多の5回優勝経験を持ち、どの時代においてもスーパースターと呼ばれる選手を輩出してきました。ペレに始まり、ガリンシャ、カルロス・アルベルト、リベリーノ、ジーコ、ソクラテス、トニーニョ・セレーゾ、パウロ・ロベルト・ファルカン、カレカ、ミューレル、ロマーリオ、ベベット、ドゥンガ、ジーニョ、ロナウド、リバウド、ジュニーニョ・パウリスタ、ロベルト・カルロス、レオナルド、ジョルジーニョ、ロナウジーニョ、ジュニーニョ・ペルナンブカーノ、カカ……と、僕が資料なしで思い浮かべられるだけでもこれだけいます。最近ではネイマールですね。あと、ブラジル出身ということで言えば、デコ(ポルトガル代表)やジエゴ・コスタ(スペイン代表)も含まれるでしょう。

ブラジルはサッカーの国。だからワールドカップがこの国で開催されると決まったとき、「もっとも幸せなワールドカップになるのでは」という期待がありました。そんな最中での暴動には驚かされるばかりですが、かといって、まったく想定外というわけでもありません。結論から言えば、ブラジルにおける一般的な国民の生活水準が変わったから……ブラジルを中心とする経済成長に理由があると思うのです。

ワタクシは別に経済について語れるほどの知識はございません。が、まったく違うところで、成長著しいブラジルの今を実感することがありました。それは、ハーレーダビッドソンの動向です。

米ミルウォーキーで開催されたH-D 110周年記念パレードにて
ちょうど2010年頃から、ブラジルにおけるハーレーダビッドソン販売実績に大きな伸びが見えはじめ、2011〜2012年には、世界全体でもっとも大きな伸びしろを叩き出すまでになったのです。そう、米ミルウォーキーに本社を構えるハーレーダビッドソン モーターカンパニー社が期待を寄せるインドや中国といったアジア市場以上に、です。2012年、カンパニーがハーレーダビッドソン最大のイベントをブラジル・リオデジャネイロで開催したところにも、南米大陸に対する同社の期待がどれほど大きなものかが伺えるというもの。

日本だけに限らず、ハーレーダビッドソンという大型モーターサイクルは趣味の世界のものです。ハーレーで牛乳配達や新聞配達をする人はいません、ハーレーに乗る営業マンなんて見たこともありません。実用性ではない、人生を豊かにしてくれる存在、それがハーレーダビッドソンをはじめとする大型モーターサイクルです。つまり、ブラジルでそれだけハーレーが普及したということは、経済的に生活水準が安定し、一般の方々がゆとりを持てる日々を送れている何よりの証拠でもあります。

国旗の色を使った鮮やかなグリーンのTシャツが目を引きます
その流れから見れば、「国が豊かになったのなら、ワールドカップに反対する理由なんてないじゃないか。むしろ歓迎すべきでは?」と思うところですが、ニュースに見られる暴動を目にすると、ブラジル政府の政策に問題がある……貧富の格差が激しいのでは? と思われます。とすると、富裕層だけが豊かになって、経済の良い流れが中流階級以下にきちんとまわっていないんじゃないでしょうか。中国や韓国での反日デモなども、結局は自国政府への不満が原因と言われています。

ブラジルが生み出すスーパースターのほとんどは、スラムなど貧しい家庭で育ったと言われます。ガリンシャやロマーリオ、ロナウドなどもそうだと聞きますね。そんな彼らに共通する条件とは、「小さい頃からサッカーボールに親しんでいること」「サッカーを楽しむことが生活の楽しみであること」「ハングリー精神があること」「しっかりした育成機関(プロのクラブチーム)があること」などでしょう。日々を暮らすことで精一杯の生活のなかで、唯一の光がサッカーであり、そのサッカーで一流になれば貧しい生活を抜け出し、豪華な家に住んで贅沢な暮らしができる。医療や教育のインフラが整っていないから、スラム出身の子が勉強で一流になることはまずできません。だから彼らはプロサッカー選手を目指すんです。日本とは、根本的に生活水準というか、ものの考え方のベースが違うと言っていいでしょう。

彼らの姿から、昔から抱いていたブラジルのイメージが変わったよう
そんなブラジルが、経済成長による恩恵から豊かな国へと変貌しつつある一方、それも表面的なところだけで、きちんと国としての基盤を整える政策がとられていないとしたら……。言い換えれば、割り振れるお金があるにもかかわらず、中流階級以下への配当がなく、見た目の豪華さにばかりお金をかけていたとしたら、そりゃ暴動が起こっても不思議じゃないでしょう。「ハーレーダビッドソン? それよりも必要な生活用品があるわい!」、「ワールドカップ? その金があるなら、少しでも国民の生活水準をあげる努力をしろ!」、そんな声が、地球の裏側から聞こえてきそうです。

「ブラジルでワールドカップ反対の暴動が起こるなんて」

それは、地元の実情を知らない他国の人間だから思うことであって、そこに住み、生活が困窮している人々にとっては「それどころではない」に違いありません。

一方で、FIFA、そしてIOCはどう考えているんでしょうか。

ブラジルでは、今回のワールドカップの2年後には、リオ五輪が控えています。しかし、表面的なことに奔走する政府を見て、「スポーツで世界を豊かにする」ことをその存在意義とする大会の運営母体(FIFAとIOC)としては、それぞれの大会を開催するにあたり、「ブラジルという国はふさわしくない」という判断はしないのだろうか、と。結局、どちらも拝金主義に走ってしまっているんでしょうね。クーベルタン伯爵が草葉の陰で泣いているのが見えるよう。

ワールドカップやオリンピックを開催することで、ブラジルという国に大きなお金が落とされることは間違いありません。ただ、それも“使い方”が大事なのであって、そこ(政府)に対して不信感があるから、国民はイベント開催以前に自国の問題点をなんとかしたい、と行動を起こしているのでしょう。きちんと国民のことを考えた政策をとる政府だという信頼があれば、今暴れる必要はないわけですからね。

ブラジル大会で不幸な出来事が起こらない……そう言い切れる自信はありません。しかし、仮に何かが起こったとしても、驚くことはないでしょう。急激な経済成長と拝金主義の政府が生み出した不幸な惨事……何事についても、僕はそう捉えるでしょう。
 

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